「ね、なまえちゃん。」
「なんですか?」
黄瀬さんが大量に頼んだデザートの中からアイスクリームをもらって食べていたら、黄瀬さんが少し気まずそうに口を開いた。
もしかしたら、帰りたいとか、疲れてきたのかもしれない。彼は優しい人みたいだから、口に出しにくいのかもしれない。
スプーンを置いて、口を開く。だったらさっきの黄瀬さんみたいに次は私が黄瀬さんを助けてあげたい。
「時間が危ないとかですか?だとしたらすみません。私の事は気にしないでくださ…。」
「ち、違うっス!」
言葉を最後まで言わない内に黄瀬さんが大きな声で否定を口にしたものだから驚いてしまった。私のぽかんとした表情を見たからか黄瀬さんはあわあわと手の平を揺らした。
「えっと、じゃあ…?」
「その、嫌だったら、答えなくていいんス。ちょっと気になって。」
「はい、大丈夫ですよ。」
「その、どうしてなまえちゃんはオーディション受けて…芸能人を目指してるんスか?」
思わず目を見開いてしまった。今まで周りに、嫌と言うほど何度も聞かれてきたその質問。でもまさか、黄瀬さんに聞かれるとは思わなかった。
私が不愉快になったと思ったのか黄瀬さんが慌てて頭を下げるから、私も慌てて否定して黄瀬さんの頭をあげてもらった。
「驚いただけなんです。まさか、黄瀬さんにそんな事聞かれるとは思ってなかったから…」
「…ごめんね。」
「もーなんで謝るんですかー!黄瀬さんは何も悪くないですよ。」
むしろ、悪いのは私…なのに。黄瀬さんは何故かとても頻繁に謝る。私が少し驚いたりしただけで何度も申し訳なさそうに、まるで自分を懺悔するかのように何度も、何度も。それはさっき言っていた「自己満足」と関係があるんだろうか。
黄瀬さんに安心して欲しくて笑ってみせれば彼は少しだけほっとしたように笑った。
本当に不思議だ。さっき駅の大画面で見ていた彼が目の前にいてこんな風に話しているなんて…ドラマでもこんなに上手くいかないんじゃないかというような展開で。
「少し、長くなるんですがいいですか?」
もちろん、と笑ってくれた黄瀬さんに安心を覚える。このドラマのような展開に甘えて、少しだけ話してみようか。
今日だけ、少しだけ、いつだって脇役の私をドラマのヒロインにして。