「ご、ごめんなさい。」
冷静になって、一気に頭が冷やされて声が震える。謝りの言葉さえ上手く紡ぐ事が出来ない。手足が震えて箸を落としてしまいそうになり慌てて机に置きなおして。
その時にグラスに腕をぶつけて、中身を零しそうになってしまって、黄瀬さんが慌ててグラスを支えてくれた。
「すみませ、すみませんっ。」
「大丈夫っスよ、大丈夫だから。落ち着いて?大丈夫、ね。」
私はあんなに最低な事を言ったのに黄瀬さんは優しくて、泣きそうな声で何度もごめん、ごめんと言ってくれながら、向かいから手を伸ばして頭を撫でてくれて。
どうせ、私を見下しているんだなんて思っていた、その手の平はとても、優しかった。
「そうだ、甘いもの頼もう!甘いもの食べたら幸せな気持ちになれるんスよ、ね!」
「…なんで、」
「ん?」
「どうして、そんなに優しくしてくれるんですか?」
「ただの…自己満足っスよ。」
そう言って彼は、泣きそうに笑う。ただの自己満足だと言いながら、痛いくらい、悲しそうに笑った。涙を流しているわけでも、目に涙を溜めているわけでもないのに、その表情は見ているこちらが泣いてしまいそうなくらい、痛かった。
「そうだ、改めて俺は黄瀬涼太っス。好きに呼んでいいからね。」
「あ、みょうじなまえです。」
「なまえちゃん。」
よろしくっス、そんな風に言って彼はにこりと笑った。切り替えるのがとても早い。学生時代からモデルをして、そのまま俳優への道を歩んで、苦労知らずの人だと、そう思っていたけれどそれは大きな勘違いだったのかもしれない。
私程度のその辺りにいるただの女の子を助けてくれて、理不尽に怒鳴り散らした私を怒る事もなく、私が気を使わないでいいように、気に病まないようにしてくれる。
今もメニューを開きながら、どれもおいしそうっスね、全部頼んじゃおっか!なんておどけて私の気持ちを穏やかにしてくれる。
「ありがとうございます。」
自然に口からは御礼の言葉が零れて、黄瀬さんはその言葉に、どういたしましての言葉と、優しい笑顔で答えてくれた。