「え、駅の大画面に映ってた…!」

「あ、新曲宣伝のやつかなー」


なんかちょっと恥ずかしいっスね、なんて言って、照れたように笑う彼、黄瀬涼太。何サラッと正体バラしてるんだ、とかこんなところにいていいのかとか、なら尚更どうして私なんかに声をかけてくれたのかとか、色々突っ込みたい事はあるんだけど。

驚きすぎてうまく言葉に出来ないやら、突っ込みたい事がありすぎてどこから突っ込めばいいのか分からないやらで、ただ金魚のように口をぱくぱくと動かすしかなかった。


「それにして、これ美味しいッス。もうひとつ頼んじゃおうっと。」

「ええー…。」


これがあの大画面に映っていた人間だなんて信じられなくて一気に気が抜けた。目の前にある料理を嬉しそうにぱくぱくと食べる彼は、あの大画面で笑っていた人と同じ人間とは思えないくらい。
普通の人、というかまるで高校生くらいの男の子みたいだと思った。


「そういえば、今日って何のオーディション受けてたんスか。」

「あ、所属とドラマ出演のやつです。…結果は残念だったんですけど。」

「あー、そうなんスね。でもまた次があるっスよ。」


思わず口の中にある箸を、噛んでしまった。彼に悪気はないんだろう、むしろ励まそうとしてくれている事はその笑顔からよく分かる、のに。
目には衝動的とも言える涙が滲みだしていて、心の奥から奥から、弱音や怒りが浮き出して来て、声にしてしまいそうになる。


「も、無理ですよ。」

「そんな事、ないっスよー!」

「簡単に、言わないで下さいよ!」


大きな声を、出してしまった。机の上のグラスの中身が揺れて、空気が震えている。彼を、驚かせてしまったにちがいない。駄目だ、私みたいな一般人がこんな場所で彼に怒りを飛ばしてはいけない、いけないに決まっているのに自分で自分を制御出来ない。


貴方なんかには分からない、綺麗な容姿に恵まれて、努力せずとも事務所にも必要としてもらえて、オーディションにも受かって、そんな人に私の気持ちが分かるはずがない。
私が嫌というほど努力して、落ちて落ちて、お前なんかには無理だと言われて。努力しても敵わない事があるんだと、恵まれたあなたは知らない癖に、なんて暴言を吐いて。

滲んでいただけの涙はいつの間にかボロボロと溢れ出して行って、止まらなくて。彼を羨ましいなんて思っている自分が本当に汚いって事分かってるのに。分かってるのに。


「ごめん、」


彼の泣きそうなその声が響いて、冷水を浴びせられたかのように、勝手に熱くなっていた思考が一気に冷やされた。


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