ストッキングをはきかえて、席に戻った。さっきはまだ何もなかった机の上にはいくつかの美味しそうな料理が並べられていて。思わずびっくりしてしまった私に気付いた彼はにこりと笑った。
「おかえり、ご飯適当に頼んだから好きに食べてね。」
そういえばご飯食べてないや。まさかそんな事もお見通しで、さりげなく頼んでくれたとかだったりするんだろうか。
ちらりと彼を見遣れば彼は、どーぞ、なんて私におしぼりとお箸を差し出してくれて、軽く女子として切なくなった。
「とりあえず、食べよー。お腹すいてない?」
「え、あ、少しだけ。」
「よかったー。じゃあいただきます。」
機嫌よさそうに、彼は唐揚げをつつく。私も前に置いてあった揚げだし豆腐をありがたく頂く事にした。…なんで、こんな事になってるんだろう。って気持ちももちろんあったけど、どうも言い出しにくくて、口をつぐんでいた。
「おいしー。」
何気なく食べた豆腐はすごく美味しくて、思わず口に出てしまって。慌てて言い訳しようとすれば、彼が嬉しそうに笑った。
「でしょ、ここは全部美味しいんスよ!」
あれも、これも美味しいからと次々に差し出してくる彼はとても嬉しそうで、そんなにこのお店が好きなのかなと思った。
今なら、聞けそうな気がする。少しだけ躊躇ってから口を開いた。
「あの、なんで……私なんかを助けてくれたんですか?」
「ん?」
「消毒液とかも買ってくれて、手当てもしてくれて、すごく感謝はしてるんですけど…」
ないとは思うけどやっぱり仮にも女子なので、色んな可能性も考慮して不安になってしまう。
相当不安そうな目をしていたのか、彼はあたふたと慌て出して逆にこっちが申し訳なくなってしまう。
「あの、俺、さっきもスタジオで見かけてて…。」
「スタジオ…?あ、オーディションの…?」
「そう!そこ!」
「今日、男子向けのオーディションも…?」
帽子で目元は隠れているものの、それでも分かる綺麗な顔立ちに、少しだけ帽子からもれている綺麗な金髪に、とてもスタッフさんとは思えなくてそう声をかければ彼は驚いたようにぽっかり口を開いた。
「俺の事、知らない?」
「えっと…?」
彼が帽子を外して、隠されていた瞳がのぞく。長い睫毛にふちどられた、どこまでも深い金色の瞳。あれ、なんかどこかで――――――
――『今度俺の新曲が発売されるっス!』
「俺の名前、黄瀬涼太って言うんスよ。」
驚きすぎて、ヒュッと息の鳴る音が聞こえた。