目深に被られた帽子からちらちらと見え隠れする金色の髪に、陰になって見えにくくはあるけど、それでも分かるほどに整った顔立ち。

自分とは違う光にある人だと一瞬で分かった。







声をかけたのは気分だった。

撮影が終わった後、明日の撮影時間が昼からに変更になったとマネージャーに伝えられて、それならば久しぶりに少しぶらついて帰ろうか、と思って家に帰る途中の駅で降りた。
どこも行きたい場所なんてなかったのにどうしてその駅で降りたのか分からないけれど、気付いたら改札を通っていて、帽子を深く被り直してから歩き出した。

平日だと言うのに人波が途切れる事はなくて、少し気を抜けば流されてしまいそうだ。さすがに一人だからか居酒屋の勧誘はなかったけれどティッシュやチラシ配りは多いし、声をかけてくる女は多いし少しうんざりして、何もしてないけどもう帰ろうかと思った時、植木の端に座り込んでいる女の子を見つけた。

抱えられた左の膝からはだらだらと血が流れていて、当然ストッキングは電線して盛大に破れていて、その姿にぎょっとした。
周りの人間はといえば、女の子が座り込んでいる事なんて見えないかのようにすたすたと女の子の前を通り過ぎて行って。
有り得ないけどその女の子が雑踏の中に消えてしまいそうな気がして、気が付けば女の子の方に歩き出していた。

汚れてしまってはいるけれど、セーラーカラーのスカートやパンプスはひとつひとつが上品で、どこかで見たようなその姿に首を傾げながら声をかける。


「……大丈夫っスか?」


そう声をかければ、彼女は顔を上げる。その姿を見てようやく思い出した。あぁ、あの子だ―――すれ違って、彼女に似ていると思ってしまった子だ。こうして向き合えば本当に似ている気がしてくる。
決して容姿が似ているわけではないのだけれど、雰囲気というか、周りに言えば反論をくらいそうなのだけれど、どうしてもどこか似ている気がしてならない。

じっと見つめれば、彼女は顔を歪めてぼろぼろと涙を零しはじめて、驚きに心臓が跳ねた。俺は何かしてしまっただろうか、それとも「黄瀬涼太」が泣くほど嫌い、なんて…そんな悲しい話だったりしたらどうしよう。

声をかけたのは俺だし、乗りかかった船ってヤツだ…合ってるっけ?それに何よりこの子の泣く姿はどうしても…彼女と、重なる。
あの時彼女の涙を止められなかったからなんて、最低な考えだとは分かってはいるけど、気づけば俺はその子の手をとっていた。


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