世界一会いたくて、


ふわりと初夏のゆるい風にのせられてきた甘い香りが鼻を擽る。高尾の甘辛い香水だか制汗剤だかと混じって不思議な香りになっていたけれどすごくいい香りだ。


「アイス!」

「だな、今日熱いし食う?」


首を傾げてそう聞いてくれる高尾に大きく頷けば、高尾は何味にすっかなーと言いながらペロリと舌を出した。その仕種に一瞬ドキリとしてしまって、慌てて赤くなった顔を手の平で扇ぐ。一瞬でも高尾にドキッとしちゃうなんて、あーやだやだ!
熱を冷ますように軽く首をふっていれば、何してんだよーと高尾が声を上げる。可愛らしい制服を着た店員のお姉さんがクスクスと笑っていて、また顔が赤くなってしまった。


「バカ高尾。」

「いって!」


軽く頭を叩けば、高尾は不服そうに唇を尖らせて。そんな姿を見た店員のお姉さんはまた小さく笑っていた。カップルとでも思われているんだろうか。
緑間がいればこんな事にはならなかったのに…!てっきり一緒に来るものだと思っていたのに、校門を出た途端あっさりと帰ってしまった緑間を思い出して憎らしくなる。明日はあいつ占い最下位だ、絶対最下位にしてやる。
別に高尾と二人なのが嫌なわけじゃないけど、私だって腐っても女子だから少しは緊張する。高尾はそんな事ないかもだけど!


「お前何がいい?」

「あ、えーと、クリームソーダ。」

「おま、変わったところいくな…。」


ごめんねーストロベリー!とか可愛いの言わなくて!と言えば、高尾は楽しそうに笑った。何が楽しいんだもう…というかそう言う高尾も季節限定のよく分からない名前のものをお姉さんに頼んでいる。
少しだけむくれていただけなのに、お姉さんの仕事は早いようで高尾はもう私にアイスを差し出していた。


「ありが…って、あ、ちょっとお金!」

「あーうるさいうるさーい、こういう時は黙って御礼言ってろっつーの。」


自分のアイスを口にしながら、アイスを持っていない方の手で私の額を軽く小突いた高尾の行動が、漫画みたいで、驚きが隠せない。…一瞬高尾がイケメンに見えたわ。


「ありがと、」

「おー、あ、食べたら隣のゲーセンいこーぜゲーセン。」


ぴしりと高尾が指差した先にはゲームセンターがあって、そこからはピロピロと騒がしい音が漏れている。学校帰りにゲーセンに寄るのなんてなんだか久しぶりな気がして、テンションが上がって笑顔で賛同を返せば、高尾も満足そうに笑った。


「ねー高尾、太鼓の達じ…」

「おー、どうした?」


アイスを取り落としそうになって慌ててアイスを持ち直す。やろうと提案しようとした王道ゲームの名は最後まで紡げなかった。頭の中を一気にたくさんの映像が駆け巡って、限界だ。

世界で1番会いたくて、会いたくなかった。

見間違うはずがない。制服は違っても、ほぼすべてが数ヶ月前のあの頃のままで。痛んでいるように見えない金髪は世界中の光を独り占めしたかのように輝いていた。すべてが、相変わらず、太陽のようで。

大好きで、大切で、だからこそ会いたくなかった、会えなかった。


黄瀬涼太が、そこにいた。




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