明るく笑う太陽


秀徳に入学してしばらくたって、学校にも少しずつ慣れはじめた頃、噂のキセキの世代の一人だった黒子くんからメールが来た。彼と試合をしたという報告と、黒子くんの近況、そして彼は元気そうだという旨がそこには書かれていた。


「試合、負けたんだ。」


どんな事でも、負ける事がなくて、夢中になれる事がないと、そう言っていた、彼。多分きっと初めて試合に負けたんだろう。初めての、負け。胸がじくじくと痛む。
本当は、繊細で、怖がりな優しいひとだから。私に出来る事なんて何もあるはずはなくて、彼にしてみれば私なんて顔も見たくないのだろうけど、ただ、彼が今日も、出来るだけ傷つかずにいてほしいと、そう思ってしまうのは私のエゴだろうか。


「その試合なら、見に行ったのだよ。」

「わ、緑間…!」

「黄瀬と黒子の学校の試合だろう?」

「…うん。」


どうしようもない試合だったのだよ、と緑間は目を伏せる。綺麗にテーピングが巻かれた指先は、ラッキーアイテムだろう電球を持っていた。…電球、て。


「…黄瀬なら、リベンジするとか無理な事を言っていたのだよ。」

「っ、ありがとう。」


優しさの隠れた緑間の言葉にじんわりと胸が暖かくなる。私の知らない間に彼はずっと、強くなって行っているらしい。


「そういえば、またリヤカー使ったの?」

「あぁ、俺は一度も自転車を漕いでいないがな。」


ふ、と笑った緑間の肩にだらんとした腕が添えられる。猫のような、狐のような目は口元と一緒に、にやりと細められている。どうやら今日も彼は緑間をからかう気満々らしい。


「でも渋滞になったからって置いてくのはひどくなーい。真ちゃーん?」

「高尾!」


ばしりと腕を払って大声をあげる緑間を見て高尾はケラケラと嬉しそうに笑う。緑間に言ったら怒られそうだけど本当に二人は仲が良い。


「なまえちゃーん、たーすけてー。」

「ちょ、私を盾にしないでよ。」


緑間を挟んでいつの間にか仲良くなってしまったこいつ、高尾和成は本当に賑やかな奴で。シリアスな悲しい雰囲気も明るくカラリと晴らしてしまう高尾はありがたい存在だったりする。
太陽のような笑顔がどこか、彼に似ている高尾は彼を思い出させて、でもそれが悲しくて、でも、嬉しくて、その彼が私に笑いかけてくれる事に助けられてしまう。

明るく笑う高尾に、怒りながらも何だかんだ本気ではない緑間。この二人の明るくて、楽しくて優しい雰囲気には助けられっぱなしだ。

彼も、こんな風に楽しくて優しい時間にしてくれる人が周りにいてくれたらいいと、心から願った。




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