流されるんじゃなくて
高尾の声と、涼太の声が頭の中でぐるぐると混ざって私を混乱させる。二人とも大切で、大好きな事に変わりはないんだから、比べられるはずが、ないのに。
好きな気持ちだけじゃなく、自分の安全までをも含めて考えてしまう自分に腹がたつ。私は本当に、最低だ。好きと言ってもらえるような人間じゃ、ないのに。
やめて、やめて。
「…君たちは、何をしているんですか。」
「…黒子っち?」
「黒子!?」
試合前に顔を合わせて、優しい声をかけてくれた友人の名前に驚いて顔をあげる。そこには呆れた顔で私達を見る黒子くんと、さっき黒子くんの後ろに立っていた真っ直ぐな赤色の瞳と髪を持った男の子が立っていた。
「なまえさん、大丈夫ですか?」
「あ、う、黒子く…」
思ったより私は動揺と衝撃でいっぱいいっぱいだったのか、黒子くんの優しい声で大丈夫かと聞かれた瞬間涙腺が決壊してしまって、ボロボロと涙が零れだした。
「…大丈夫ですよ。」
私に優しい声色でそう声をかけてから、黒子くんは立ち上がる。溜息をひとつ吐いてから、二人の方を見た黒子くんは、一言。「君たちは馬鹿ですか。」とそう言った。
私が驚きに目を見開いている間にも黒子くんはスラスラと言葉を並べていて。
「なまえさんを守りたい?大切にしたい?なまえさんは今…君たちの言い争いを聞いてどんな気持ちになってると思いますか?…君たちも男なら、もう少し男らしく想いを伝えたらどうですか。」
息継ぎをどこでしているかも分からないほどスラスラと並べられた言葉の羅列は黒子くんらしくなくて、私はただ驚いて。二人も、黒子くんと一緒に来た彼も驚いていた。
「なまえさん、行きましょう。貴女は少しゆっくり自分の気持ちや心と向き合った方がいいです。」
黒子くんの言葉は驚くほどすんなりと心に入ってきて、胸に響く。確かにこんな中途半端なまま二人と向き合うのは間違っているかもしれない。
きっかけを探して流されるんじゃなくて、自分勝手に考えるんじゃなくて、周りの顔色を見るんじゃなくて、自分が誰が好きなのか、自分は誰とずっと一緒にいたいのかちゃんと考えなくちゃいけないんだ。
その時が来たんだ、高尾も涼太も大好きで、大切で、叶うなら二人の傍で楽にしていたいけどそれじゃ駄目だから。
「私、ちゃんと考えるから、少しだけ時間をください。」
そう言った私に向かって二人はゆっくりと頷いた。