現在と過去


試合が始まった瞬間から何度も、心が折れてしまいそうになった。胸が、壊れてしまいそうに痛かった。

逃げるわけには行かないとただ、血が滲むほどに強く手の平を握り締めた。冷汗が首筋に流れて、髪の毛がはりつく。怖い、本当は今すぐ逃げてしまいたい。

でも、逃げてしまえばきっとまた同じ事の繰り返しだから、だから私は今日で彼への気持ちを断ち切るんだ。
どんどん可愛くなっていく女の子達を見て、劣等感で潰れそうになっていた私がいる。彼が夢中になれたバスケをする姿を、試合を見てみたいのに臆病でそれが出来なかった私が今でも胸の中で泣いている。

別れなきゃいけない。つないだ手はとうの昔に離れてしまっているんだから。

バスケットボールが空中に投げられた。






何度も繰り返される彼と青峰くんの対峙。中学の頃何度も彼が話してくれた青峰くんとの1on1の話、一度も勝てなくてくやしい、でも楽しい、青峰くんは自分の憧れで目標だと言っていた。青峰くんが負ける姿なんて考えられないと、
その青峰くんを倒す為に何度も食らい付く姿は、いつもの彼とはまるで違って。

必死で、一生懸命で、爽やかなんかじゃ全然なくて、それでも今までで1番輝いて見えた。

彼の動きが変わって行く、青峰くんと同じような型のない動きで、コート内を駆け抜けて行く。嬉しそうに青峰くんの事を話す中学の時の彼の笑顔が浮かんで消えていった。動きつづける唇は、きっとそのためで。

――――彼は憧れだった青峰くんの模倣をしようとしている。


何も知らない、海常の黄瀬涼太の事を私は何も知らない。それでも彼がチームから認められて必要とされている事は他の選手の動きを見るだけで分かってしまう。3年間、彼だけを見てきたから。

彼が、青峰くんを抜いてシュートを決めて会場がざわつく。やだ、どうして私が泣きそうなの、どうして。

最終Qに入る瞬間彼がゆるい動きで会場を振り向いた。こんなに、沢山の人がいるのになぜか目が通い合って、気付けば私はがんばれの言葉を口にしていた。


残り、1分。

彼が青峰くんとまた、対峙する。最後の一騎打ちだと誰かが言う声が聞こえた。時間が止まった気がした、それほどに長い時間だった。

ボールははじかれて、桐皇のシュートが決まって。


試合は、流れて、彼は、海常は最後まで走りつづけたけれど、桐皇の勝利で試合終了のブザーが鳴り響く。
先輩に支えられて彼は、泣いていた。汗だくで、一人で立ち上がる事も出来なくて、涙を流していて、それでも、彼は本当に。

馬鹿だなあと思う、私が泣いても仕方ないのに、決別するって全て棄てて振り返らないって決めたのに、涙は止まらなかった。


大好きな人、大好きになった、大好きだった人。


胸が痛くて、いっぱいに苦しくて、どうすればいいのか、何がしたいのか分からなくて、周りに見られないように会場を出る事くらいしか私には出来なかった。




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