選択と崩壊
「やっほーなまえちゃんっ。」
「わっ、」
夏休みに入ったせいかやけに賑わう朝の駅前、じりじりと照り付ける太陽に対抗するように日焼け止めを塗り直していたら、突然目の前に高尾の顔が現れて驚いてしまった。
俯いていたせいで一瞬誰かと思った。さりげなくつけられたシルバーアクセサリーが太陽に反射してキラキラと輝いている。黒と青を基調にまとめられた洋服は、爽やかながらもなんだか、なんていうか、かっこいい、かもしれない。
「今日、おしゃれだね。」
「お、マージで?あんがと!」
白い歯を見せて嬉しそうに笑う。誉められ慣れてるんだろうなぁ、なんか悔しい。今日の高尾はなんだか爽やかすぎてなんていうか急に恥ずかしくなってきて目を逸らす。最近の私は少し、おかしいと思う。
「なまえも、かわいいじゃん?」
「うぁう…りがと。」
なんか、誉められ、慣れてないから一気に恥ずかしくなる。高尾はあんなに慣れた感じだったのになあ…悔しいような恥ずかしいような気がしてついつい顔が赤くなる。今が夏で、よかったなあ。
「…俺は帰っていいな。」
「あ、」
眼鏡のフレームを上げながら溜息をはいた緑間を見て、高尾と一緒に声をあげた。明らかに16才が着こなせるものではない服にサングラスをしっかりちゃっかり着こなしている緑間はかなり目立っていて周りの女の子がチラチラと見ていた。
「…まったく、大体俺を呼ばずに二人で行けば良いものを…なぜ俺を呼ぶのだよ。」
「ごめんごめーん。真ちゃんいないと寂しいじゃーん?」
「そーそ、真ちゃんいないと寂しいじゃーん?」
右側に高尾、左側に私の立ち位置で緑間の顔を覗き込む。緑間は眼鏡を支える指先を震わせながらまた溜息をはいて、怒るのも馬鹿馬鹿しいのだよ…と言った。
じゃ、行こっかと笑う高尾の声を合図に三人で歩き出す。4月に比べてかなり距離が縮まったなあと思う、彼がすべてだった中学生の頃とは違う。
「楽しみだね、」
高尾が、笑う。緑間が笑う、この日常を守りたいと思う、思ってた。思ってた。
崩壊の時は、選択の時は、それでも。