なつやすみ


あの日の事が嘘だったかのように、毎日が帰って来た。夏の大会は終わってしまったものの高尾と緑間は既に冬の大会(WCというらしい)を目指して、相変わらず毎日頑張っている。
ただ、高尾は前にも増して私に甘くなった気がする。多分自意識過剰とかではない、はず。


「難しい顔してんねー。」

「む、」


1期末テストも終わり、とうとう終業式。高校生活はじめの夏休みだからかみんなが浮足立ったHRの時間。この後は地獄の成績表配布だなんてみんなきっとすっかり頭から抜けている。

相当難しい顔をしていたのか、高尾に口にポッキーを突っ込まれた。ちょ、今HR中。吐き出すわけにも行かずさくりと一口かじれば、濃厚なチョコレートの味が広がった。あ、これ高くてちょっとしか入ってないやつだ。
疲れていたのか甘さが身体に染みて、気持ちが少しだけ柔らかくなった気がする。急にポッキーを突っ込まれた事に怒る気もなくなってしまった。


「おいしー」

「だろー、疲れた時には甘いものってね!」


歯を見せて笑う姿は少し幼くて、可愛くて自然に頬も緩む。最近色々と気が張り詰めているせいか高尾には癒されっぱなしだ。彼からの連絡は、全くないままだ。


「てゆーかさ、夏休みどっか行こーぜ。」


私の机に頭を預けたままこてんと首を曲げる姿は反則だと思う。さすがに少しドキッとしたので、ごまかすように高尾のむきだしのおでこにデコピンを決めた。
いってぇと騒ぐ高尾に先生がやる気のなさそうな声で注意を入れた。さすがに終業式という事もあってか先生もゆるい。


「なまえー」


むすっとしながら名前を呼んでくれる高尾がおかしくて笑ってしまう、笑顔そのままでごめん、ごめん。どこいこっか?と言えば高尾の表情がコロリと変わってそれがおかしくてまた笑う。


「計画!計画たてよーぜ!部活休みの日には出来るだけ遊びに行く!」

「ちょ、休め。」


高尾は既に話を聞いてなくて、海ープールー花火に遊園地…と遊び場所を並べ立てながら机に書いていく。私の机なんだけど。てゆーかどう考えてもそんなに行けないけど、笑顔で考える高尾を見ていたら行ける気がしてしまって。

海かプール行くならもう少しは痩せなきゃ、花火大会なら浴衣買い替えようかななんて高尾と一緒に考え出していた。



ポケットの中で携帯がちかちかと光って着信を知らせていた。




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テーマ「人外ファンタジー」
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