両手で顔を覆った
試合の始まる音が聞こえて、肩が震えた。真下のコートでは緑間の、黒子くんの――高尾の試合が始まっている。試合、見なきゃ、高尾に応援するって約束したのに、試合見なきゃ見てあげなくちゃってそう思うのに黄色の瞳から目が逸らせなくて。
「…試合見よう。」
彼がそう言って目を逸らしてくれなくちゃ、きっとずっと目を逸らす事は出来なかっただろう。本当に情けないなぁって、結局私は未だに彼が好きで、依存している。もう二度と、振り向いてくれる事もないのに。
…バカ。
◇
緑間がコートの端から投げたボールが綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれていくのが見えた。あれが高尾が言っていた緑間の3Pシュート…あのシュートの為にいつもテーピングが巻かれている緑間の指を思い出した。あぁ、すごいとただそう思う事しか出来ない。
高尾がボールをはじく姿が見える。コートの中でボールを奪う高尾の姿はいつもの姿と違って、強くて、輝いていて、その姿に心が締め付けられる。
いつも私の傍で、ふざけて、笑って、バカばっかりやってる高尾なのに、ここからでも真剣な事が分かるほど高尾は、真剣で必死で。
急に高尾が遠い人になってしまったかのようで、あの時の感覚に似ていた。彼がモデルになってバスケの天才と呼ばれるようになった時。沢山の女の子に囲まれていて、話し掛けるのが怖くなってしまった時。
「…高尾。」
思わず名前を呼んでしまう、会いたい。会いたい。遠くに行かないでと思ってしまう私がいる、友達だから。友達、だから?
試合が進んでいく、数えきれないほどのシュートが決められて、得点差は少ししかなくて、客席が緊迫感に包まれているのが分かった。
どこかで、いくら黒子くんの学校が相手でも秀徳が負けるはずはないと思っていた私がいた。中学の頃よりずっと傍で二人の努力を見てきたし、試合の報告は勝ちしか受けていなかったから、負けるはずはないってどこかで思っていた。
二人が大切だから、負けて悲しむ二人が見たくなかった。
緑間にボールが回る、緑間のシュートが外れるはずはない。逆転すると思った瞬間、緑間の手の平からボールが消えた。…黒子くんだ。
ブザーが鳴り響く。
負けた、秀徳は、インターハイには行けない。高尾と緑間を見てしまえば涙が零れそうで目を逸らしたものの、誠凜高校の勝ちと聞こえた瞬間涙が溢れて止まらなくなった。
私が、負けたわけじゃない。私が、試合に出たわけじゃない。なのに涙は止まらなくて、無言で両手で顔を覆った。