黄色から逃げ出す


観戦席に来たものの、周りがバスケ選手ばかりで畏縮してしまう。一応それなりに空いているあたりの端っこに座ったものの、周りがジャージの男の子ばかりなせいか浮いてしまう。せめて知り合いでもいればいいんだけれど、知らない学校ばかりで知り合いなんていそうもない。

試合が始まってしまえば私も周りも試合に集中するし早く試合はじまってくれないかな、そういえば高尾ってポジションどこって言ってたっけ、なんてぼんやりと考えていたら、隣からドサッという音が聞こえて驚いて思わず隣を見た。

隣を見たのが間違いなのか、隣が空いている席に座ったのが間違いだったのか、そもそも軽い気持ちで観戦に来たのが間違いだったのか―――口の中が、見開いた目がカラカラと乾いているように痛い。ワンピースをにぎりしめて、叫びをぐっと我慢した。


「久しぶり、ってほどでもないっスかね。」


隣に座ったのは、彼、だった。数日前よりずっと近くで見ているからか、彼がこの短期間で変わっている事がよく分かる。中学の頃、まだ幼さがあって可愛らしかった顔立ちは、一気に男らしくなっていて、身長も少しだけ伸びたように思う。鋭い真っ直ぐな瞳から目を逸らせなくて、動揺を隠す事が出来ない。


「やっぱり彼氏なんじゃないスか。わざわざ試合見に来て。」

「高尾は、友達、だから。」

「…俺の試合は見に来てくれた事なかったっスよね。」

「女の子…多かったし。」


本当は見に行っていたけど、試合終了後はいつも女の子に囲まれていて、苦しくて声がかけられなかったなんて言えるはずもないし、きっと言う必要もない。
目を合わせてしまえば、顔を見てしまえば色々なものが溢れ出てしまいそうで、ひたすら自分の膝を見る。視界の端にちらちらと映る彼の手は相変わらず綺麗で、傷ひとつなくて、その指先で何度も私の頭を撫でて、涙を拭ってくれた事を思い出して。

それだけで、心がちぎれてしまいそうに、痛い。


「こっち、見てくんないんスね。声も震えてるし……ねぇ、」


―――そんなに俺が怖い?

その言葉に思わず顔を上げる。日本人離れした髪と同じ色の瞳は真っ直ぐに私を捕らえたままで、怖くない、違う、と必死で言葉を紡げば微かにその瞳が揺れた気がした。

周りが一気に騒がしくなって、選手が入場したんだな、とぼんやりと思考の端で考えた。

黄色から私はまだ、逃げ出す事が出来なかった。




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