すべての始まり



秀徳へ向かうバスと電車の中で、高尾くんは沢山の事を教えてくれた。名前を聞けば名前の漢字まで丁寧に教えてくれた。不器用な口調で精一杯優しく話してくれているのが伝わってきて、とても嬉しかった。疑いや恐怖は不思議となくなっていた。

彼の名前は高尾和成と言うらしい。携帯を取り出して変換して名前を見せてくれた。とても綺麗の名前の並びだなあと感じて、綺麗な名前だね、と言えば照れたように笑った彼は少し幼なくてとても可愛くて、心がじんわり暖かくなった。


「あのさ、もっかい、名前教えてもらってい…?」


なんて不安気に聞いてくる彼に安心して笑えば、彼は笑うなよーと唇を尖らせた。久しぶりにこうして暖かく話し掛けてくれたのが彼でよかったと思う。
不思議と同じ空気のようなものを彼からは感じて、話していると崩れた心がゆっくり積みあがって行く。


「みょうじ、なまえだよ。もう転校生って呼ばないでね。」


携帯に打ち込んだ名前を見せて、そう言ってからかってみれば、高尾くんはごめんって、と笑う。

何かは分からない。それでも磁石みたいに惹かれた、何を言ってるんだと思われてしまいそうだけど、彼と私は何かが同じだとこの頃から既に感じ始めていたのかもしれない。

この日が、お互いを認識したファーストコンタクトの日、始まりの日だった。







何やってんだ、俺って思ってた。他人なんだから関係ないってそう思ってた筈なのに、気付けばいつも一緒に帰る奴らの誘いを断って一人で校門に立っていた。
いらないです、とか気持ち悪いとか言われちまったらどうしよう、これだから人と絡むのは面倒なんだとか考えてたら向こうから転校生が歩いてきて。
少しだけ微笑んだみたいな顔を見て大丈夫かもとか思って話しかけた。そしたらすげー悲しそうに顔歪められて、まずったって思って言葉が一気にしどろもどろになる。

あーもう俺らしくねー、何やってんだよとか思ってたら転校生が、笑った。

びっくりして、相当間抜け面になってたと思う。そんな俺によろしくお願いしますと笑って、よろしくと言ってくれて思わず頬が緩んだ。

それからバスと電車乗り継いでる間に改めて自己紹介して。何言ってんだお前って思われそうだけど、なんか、全然違うけどでも、なんか俺と似てんなって思って。



この時が、俺となまえがお互いを認識した、色んな事の始まりだった。


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