溜め息の先の答え
「は?」
「だから、明日は秀徳の願書提出だろう?みょうじが一人になるから着いて行ってやってくれないか?」
貴重な休み時間に担任に呼び出されたと思ったら突然そんな事を言われて。思わず「は?」なんて言ってしまった。あの昼休みの日から毎日昼休みは教室からいなくなってしまうようになった転校生。
転校生は中庭とも言えないあの場所で毎日一人で昼食をとっているらしく、クラスでは更に浮いた存在になってしまった。
少し、少しだけ気になる気持ちはあるものの、声は、かけられないままだ。
そんな転校生の願書提出に付き合えなんて言う、担任からの願い。
そういえばあの転校生秀徳希望だったなぁ、なんて思い出す。俺も秀徳希望ではあるけど、俺は既に推薦で秀徳への進学が決まっているから明日行く必要はない。
ここから秀徳まではそれなりの距離があるし、俺と転校生は一言も話した事はなく、向こうは俺の存在を知っているかも分からない。その転校生を送り届けるなんて、周りにどんな目で見られるか分からないし、俺はそこまでお人よしじゃない。
「嫌っスよ、俺明日は早く帰って寝るんスよー。」
「おまえなあ…あいつはまだこの辺りに慣れてないから迷うかもしれないだろ…」
「…知らないっスよ!じゃ!」
「ちょ、待て高尾!」
先生の叫び声を後ろに聞きながら職員室から走り出た。そりゃ気にならないと言ったら嘘になる、でも、正直何よりも怖い。
本人から願われた訳でもない、拒否をされたらどうしたらいいんだ。必要ないなんて言われてみろ。
春から同じ学校に通うかもしれないのに気まずくて仕方ないじゃないか。
無駄に走って、走ってたどり着いた中庭。
転校生はいないのに、転校生が今も泣きそうな顔で一人でご飯を食べてる気がして。あの泣きそうな顔で一人で願書出しに行くのかな、とか、そんな泣きそうな顔で行ったら印象悪いぞとか余計な事まで考えて。
道に迷って一人で泣きそうになる転校生が見える気がして。
なんでここまで俺が悩まなきゃいけねーんだよって頭を掻き回したけど、答えなんか出なくて。
大きな溜め息を吐いたけど、答えはやっぱり、出なかった。