俺みたいな顔



担任が出て行って、何人かの女子が転校生に近付いていく。あー、話かけんだなって俺が分かったのと同じように周りも分かってるみたいで、その姿をちらちらと見ている。何だかんだでみんな気になってるんだろーけど、あれ見られてる側が俺だったらすげー気分悪いだろーなー。でも向こうにしたら今は俺も気分悪くしてる奴の一人なんだろうな。
わざとなんだか何なんだかわかんないけど、クラス中に聞こえるくらいの声で女子が声をかけだした。つーかお前ら、名前くらい名乗ってやれよ、なんて思いながら何もしないし、ちゃっかり聞き耳たててる俺も同類なんだけど。


「受かるか分からないけど…秀徳を、希望してるよ。」

「え?」


思わず声を出して驚いてしまった。多分小さい声だったから誰も気付いてないとは思うけど…。
このクラスで―――いや、この学校で秀徳を希望してるのは俺だけだ。一応秀徳は名門校で頭がいいから、この学校の奴じゃ多分成績が足りる奴はいない。正直俺も成績足りてないんだけどまぁ俺はスポーツで引き抜きってヤツだから成績はある程度あればいいんだよねー。
秀徳はバスケとしても名門校だ。秀徳に行けばきっと、俺はきっと、俺のレベルに合った奴とようやく本気でバスケが出来る。

ぼんやりとそんな事を考えていたら、女子と転校生の会話も終わったらしく、転校生は俯いていた。転校生が髪の毛を耳にかけて、横顔が覗いた。その横顔は、本当に軽く、小さくだけれど悔しそうにというか、悲しそうにというか複雑に歪んでいて、俺まで少しだけ動揺してしまった。
なんだよ、どうしてそんなこっちまで悲しくなっちまいそうな顔するんだよ、意味わかんねーよ。

なんで、俺みたいな顔、してんだよ。


俺から、話しかけてみればいいのかもしれない。ほら、俺、一応コミュ力高いってよく言われんじゃん。転校生にだってヨユーで話しかけられるはずじゃん。

なのに、足に根が張ったみたいに自分の席から動く事が出来なくて、ただその横顔を窓際の自分の席から見つめていた。

まだ1月といっても一応太陽は差し込んでいて、暖かい俺の、窓際の席。
転校生の座る廊下の近いその席が、やけに冷たそうに見えて、席を変わってやりたくなって、でもそんな自分がわかんなくて、むしゃくしゃして乱暴に席に座り直した。


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