はじまり、はじまり。
転校生が来る。そう聞いたのは、3学期に入ったばかりの高校受験シーズン真っ盛りの頃。
卒業の意識はまだあんまなくて、俺は推薦で高校が決まってたけど、周りは当然決まってないヤツばっかでピリピリしててちょっと過ごしにくいなーって思ってた時。
この半端な時期に転校なんて大変だなー親も高校進学をきっかけにって感じで待ってやれなかったのかね、オトナの事情ってやつか。
まぁ、どうでもいっか―――他人の事だし。
正直、この頃俺はバスケ部で色々あって、周りなんてどうでもよかった。一応持ち前の明るさと社交性でクラスにはしっかり馴染んでたけど、心の底では所詮他人だし、いつどうなるかも分からない、どうでもいいなんて思ってて。
だから転校生って聞いて適当に盛り上がりはしたけど、どうせもうすぐ卒業すんだから意味ねーじゃん?って感じてた。
まさか、その転校生に人生変えられるなんて。その転校生が未来の自分の1番大事なヤツになるなんて考えもしなかったんだ。
これは恥ずかしいけどそんな俺の、長い恋の話。
ああ、嫌だ。入りたくない。無理。
前の中学とほとんど作りは変わらないはずなのに、目の前にある教室の扉がやけに大きく見えて、教室の中の声がスピーカーで響かせているんじゃないかってくらい鮮明に聞こえる。
転校ってだけで緊張するのに、中3の3学期なんて、馴染めるはずがないし、みんなピリピリしてるだろうし。
もちろん私だって受験前でピリピリしてる。転校前にこっちの高校の事は調べて一応志望校は決めてきたし、合格圏内ではあるけど。
何も知らない土地で、クラスにも馴染めないまま受験だなんて。私だってどうせならクラスのみんなと頑張ろうねって言い合って受験したかったなぁ。
前とは微妙に長さの違うスカートが足にまとわりついて気持ち悪い。やだもう帰りたい…帰ったってどうにもならないしむしろ疲れるだけなんだけど。
ため息が廊下に反響して私の身体を包む。あぁなんていうかすごく、憂鬱だ。
どうせこの先も変わらない。頑張っても私は幸せになれない人間で人種なんだ。もうとっくに諦めてる。
せめて早く、成人したいなあ。
扉の向こうから担任だと紹介された人の呼び声が聞こえて、扉に手をかける。
少しだけの、無駄な無駄な期待を胸に。