悲しく焼き付く



高尾くんのおかげで、願書提出も無事に済ます事が出来た。後は試験を受けるだけ、そうしたら卒業をして、私は、高校生になるんだ。その事を考えるだけで、じんわりと心が暖かくなった。高校生だもの、もしかしたら私を助けてくれる友達が出来るかもしれない。一緒に居てくれる人が、出来るかもしれない。
それに高尾くんも同じ高校だと思ったら少し安心だし、もしもよかったら入学までに仲良くなれたら嬉しいな、なんて少し調子に乗りすぎかな。

あの日から少しだけ、一人で食べる昼ご飯も寂しくなくなった。あのバスや、電車の中での会話や空気を思い出すと不思議と幸せな気持ちになれる。

恋、なんてものではなくて。

高尾くんと一緒にいた時の空気が優しくて、何て言うかまるでとても昔から一緒にいたかのように安心出来る優しい時間だった。
もっとこの時間が長く続けば、高尾くんと仲良くなれたらなんて思うようになっている。

あの日から一言も話せてはいないけど、今日こそは挨拶だけでも出来たらいいなぁなんて贅沢な願いだろうか。


―――私と違って彼は、クラスの人気者だって言うのに。


「あ、」


靴を履き変えようと下駄箱を開けたところで後ろからざわざわとした声が聞こえてきて。その声の中に高尾くんを見つけた。
たくさんの男の子や女の子の中心で笑っている彼はとても、遠い気がした。

真ん中で太陽のように笑う彼とそれを囲む空のような鮮やかな人達。そしてそれを遠くから見つめる、ちっぽけな私。
あぁ羨ましいな、なんて思ってしまうのは、高尾くんの暖かさを知ってしまったから。

所詮私も、弱い人間だから。


下駄箱からスニーカーを取り出して、履き変える。あの人達が来る前に、早くここから離れてしまわないと。

少しだけ気になって、ちらりと振り向いてみたら、真ん中で笑う高尾くんと目が合ってしまった。あぁ、なんて運が悪い。

それでも少しだけ期待してしまう私はなんて愚かなんだろう。彼なら、もしかしたら声をかけてくれるかも。この前のようにふにゃりと笑ってくれるかも、なんて幻想。


気まずそうに逸らされた目が、悲しいほどに焼き付いた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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