「………何してるんですか」


「わ!」




志々雄様の元で働くようになって、数ヶ月。


志々雄様の側近の瀬田様のお世話をしている。




「す、すみません」


「…さっさと出て行って貰えますか?」


「…は、い」




お世話とは、身の回りのことは勿論だが夜のお世話もしている。


でも一度きり、瀬田様に抱かれただけでそれからは一度も抱かれてない。
理由は分からないけど、それ以来瀬田様は私に素っ気なくなった。

だからきっと、気に入らなかったんだと思う。


だって、こうして夜は違う遊女を呼び寄せて抱いてるんだから。










「…さて、と」


「あら、今日も抱いてくれないんですか?」




こうして毎晩、志々雄さんに頼んで遊女を呼んで、抱く………ふりをする。


nameさんはそれを見ると、いつも悲しそうな顏をするけど、それが堪らなく好きで。
僕は自分でも意地悪だなぁ、と思う。


でもそれが見たくて、辞められない。




「ええ。nameさん以外を抱こうとなんて思わないですから。」


「さっきの女ですか?」


「関係ないでしょう」


「……そうですか」




遊女は乱れた着物を治すと、部屋を出て行った。

女のプライドみたいなものを傷付けてるんだろうな、僕は。



でもnameさんを一度抱いてから僕はnameさんに惹かれて。でも認めたくなくて、nameさんに気付かれたくなくて。



何よりnameさんのあの、悲痛な表情が見たくて。









「あ………」


「あら、瀬田様の」




瀬田様の部屋の前の廊下をうろうろしてると、さっき瀬田様に抱かれていた遊女がこちらに近付いて来た。

気まずい、し。
ちょっと、お腹の中に黒いどろどろしたものが涌く。




「頑張ってね」




なんて言って良いのか解らなくて、小さく頷いた。




「好きなんでしょう、瀬田様の事。私は何もお世話を頑張ってなんて言ってないわよ。」


「え……?」




突然、言われた言葉に胸はどきりと鳴った。


好きなんて、違う。
好き、なんて………




「瀬田様は私を抱いてくれないの。貴方以外は抱かない、って言われたわ」


「…」


「信じなくたって良いけどね。でも、貴方だって私が瀬田様に抱かれてると思ってた時はきっと胸が痛かった筈よ」




なんなの、この人。
なんで、こんなに私の気持ちが分かるんだろう。


嘘か、本当か、なんて分からないけど。
それがもしも、本当なら…




「ありがとう、ございます。」




小さく頭を下げた。

すると、良い香りがふわっと私を包んだ。




「頑張りなさい」




私なんかよりもっと綺麗で、いい香りのする遊女は。

私より、ずっと優しかった。










「瀬田様」


「入って良いですよ」


「失礼致します」




遊女が部屋を出て行ってから数分後。



nameさんが部屋を訪ねて来た。

でもなんだかさっきの表情とは違って、
なんだか嬉しそうな優しい表情で。




「どうしたんです?」


「瀬田様は、私を好いて下さってるんでしょうか」


「…………はい?」




何を言い出すのか。

僕はこんなに冷たくして来たのに。




「さっきの方から、聞いたんです。………私以外は抱かないと、瀬田様はおっしゃっていたって」




あの遊女がそんなことを…でも、バレてしまえば仕方ない。



仕方ないけど、でも。




「好きじゃあなくても、女性は抱けますよ」




ぐい、っとnameさんの腕を引いて、ベッドに押し倒した。


nameさんは目を丸くして、身体は少し震えてる。




「僕は、好きなんかじゃありませんよ」




涙が今にも溢れそうなくらいに瞳は濡れている。

そんな瞳で、nameさんは僕は見詰めた。




「それでも、…私だけを抱いて下さるなら………」




nameさんは、ぎゅっと目を瞑った。

その目からは、涙が流れた。










抱き締めて




ほら、これから、


笑顔にしてあげるから。