「剣心?…剣心ってば」


「おろ」




ぼーっと空を見上げる剣心。


何を考えてるのかなんて聞かなくても分かるから聞かないのは、私が弱いからだろうか。




「どうしたでござるか?」


「薫ちゃんが呼んでたから…でも考え事なら後でも大丈夫だよ」


「あぁ、直ぐ行くでござるよ」




腰掛けてた縁側さえ、愛おしい。

剣心は腰を上げると薫ちゃんのいる台所へ向かった。その足取りは何だか軽いような気がして、ちょっとだけ妬けた。




「…あーあ、行っちゃった。まぁ呼びに来たのは私なんだけどさ」




そんな独り言ばっかり言っても、どれだけ私が剣心に想いを寄せても、きっとずっと届かないんだろう。




「…ばーか」


「何がでござる?」


「私も剣心も…………って、あれ?」




声がするほうを見れば剣心がいた。

あぁ、独り言聞かれた。恥ずかしいやらなんやら。でも馬鹿とか言っちゃったしどうしよう、謝ろうかな。




「拙者、」


「剣心は馬鹿じゃないよ!ごめんごめん、勢い余って…」


「拙者は馬鹿でござるよ、きっと」


「……え?」




馬鹿って言っちゃったの、そんなに傷付いたのかな。

何か薫ちゃんに言われたとか?




「name殿がこんなに愛おしいと思う拙者は………馬鹿でござるよ」




そう剣心が言うと、ふわっと背中が暖かくなった。
それと同時に私の顔のすぐ左側に剣心の顔。




「それって………?」




勘違いしちゃって良いのかな。

愛おしい、なんて。
どうやって受け止めたら良いの?私の脳内でその言葉がくるくる廻ってる。




「拙者は、nameを好いている…と云うことでござるよ」




その言葉を耳元で囁かれ、身体が反応する。
ついつい、夢の中のような気分に浸ってしまう。




「…name?」




愛おしいひとが、私の名前を囁いて。

私を抱き締める腕を強めた。
その温もりを噛みしめる様に、その腕を掴んだ。




「剣心」


「…」


「好き、ずっと…好きだったの」




剣心は私を自分のほうに向かせて、何時もよりもずっとずっと優しくて、
困ったような顔をして微笑った。




「だった、じゃあ満足出来ないでござるよ」




こつん、と額を私の額に合わせて見つめあった。
吸い込まれそうな瞳に吸い込まれそうになりながら、答えた。




「…好きだよ、剣心」




剣心は満足げに微笑って、引き寄せるように私に口付けた。










見える未来に



一歩、また一歩、君に近付いた。


君は優しく抱き寄せた。



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