企画用 | ナノ
勝呂竜士×志摩金造



「ハローハロー」
 振り返る勝呂に、金造は歌うとるだけですえと笑い返した。冬の道は北のように雪が積もっているわけではないが、寒く、鼻が赤く染まっている。
「ほうか」
 そう言って、勝呂はまた金造の前を歩き出した。金造は一定の距離を保って同じく歩き出し、適当なメロディーをつけて口ずさむ。歌は日本語から、英語から、知りうる限りの外国語を用いたものだったが、内容は一貫して似通っている。金造はその内容を、いろんな言葉で誤魔化し繰り返しているだけであった。
 ぶっちゃけ、金造は自身のバンドマンという職業にある利便性を見出していた。適当になにか変な言葉を言っても、歌詞だと言って、適当にメロディーをつければ簡単に誤魔化せるという点においてである。たとえばありえないくらいにくさい台詞を吐いても、歌詞だと言えばよくあるフレーズへと変わっていく。金造は自他共に認めるドアホウだったが、作詞と歌の才能だけはあった。だから誰も疑わないし、不審がらない。
 ひゅうと白い息を吐き出す。気付くと、勝呂の家(もとい、旅館)がすぐそこまでの距離になっていた。金造は歌っていた口を一度止め。コートのポケットから片手を出してひらりと振る。
「ほな、坊。虎子さんらによろしゅうお伝えおくれやす」
 普段は使わない丁寧な言葉で、金造は声をかけた。勝呂は少し振り返ったのちにおうと答えて、広い門の中へ消えていく。金造はそれを視認してから、勝呂の家より少し向こうにある自宅へと歩き始めた。
 そして最近ライブで歌ったばかりの新曲を口ずさもうとして、
「ハローハロー」


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