企画用 | ナノ
土方十四郎



「ハロー、ハロー」
 土方は意味もなく呟いた。季節は冬、常の簡素な服装だけでは寒さをしのげないほどの気温となった頃である。
 マフラーの口をうずめていた部分は、熱い息と詰めたい空気の摩擦でか濡れていて、怒らせていた肩を下げて代わりに顔を上げざるを得なかった。呼吸をすめたびに白いもやのようなものがついてきて、間もなく消える。
「ハローハロー」
 雪こそ降らないものの、今日の寒さはやはり身を刺すようなものだった。上着を三つも重ね、靴下は二枚重ねにし、さらに似合いもしないブーツを履いている。腹巻はプライドが勝りつけなかったが、こう外に出てみると後悔が少しずつ押し寄せてくる。上着のポケットに両手を押し付けるように入れながら、誤魔化すように顔をさらに上げて空にと視線を向かわせた。
「ハローハロー」
 沖田や近藤らは、今頃宿で酔いつぶれていることだろう。かく言う土方も、その鼻や頬が赤いのは寒さばかりのせいではない。
 外に出れば少しは賑やかな声が遠のくのではと思ったが、そんなことはなかった。年末年始と忙しい季節、むしろ音が絶えることなど一瞬足りとてないようだ。雪が降っていない分、音を消す術もないので、土方の耳には忙しなく音や声が響いていた。
「ハローハロー」
 何度目かの呟きを漏らす。首をぐうるりと回して、改めて空を見上げる。暗闇が街を覆っているというのに、薄暗い雲がどこにあるのか、克明に土方の司会に情報が送られてきた。その雲は昼間見るように小さく細々したものではなく、大きく、どこまでも広がっていっている。
 土方は静かに双眸を細めた。ひゅうと息を吐くと、足元に転がっていた石をひとつふたつ、みっつ蹴飛ばす。
「ハロー、ハロー」
返事は、まだ来ない。


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