企画用 | ナノ
桂小太郎×高杉晋助



「ハローハロー。こちら桂。応答せよ、応答せよ」
 糸電話がしたいと言い出したのは桂だった。エリザベスと作ったのだという。高杉はどうやってか自分の行く先を悟っていた桂に道中さらわれ、見知らぬ古い旅館の一室、その糸電話に付き合わされていた。もっとも張り切っているのは桂だけで、高杉はピンと張られた糸の先にある紙コップの片方を自棄になって耳にかざしているだけなのだが。
「ハローハロー。こちら桂。応答せよ、応答せよ」
 今頃河上や来島が、血眼となった高杉を探していることだろう。容易に想像できるその姿を、今ほど強く求めたことはない。
 さらわれた直後は刃を交えんとするだろうと思っていたが、旅館に押し込まれたかと思えば妙に真剣な表情で糸電話の相手をせまられ――逃げようとも考えたが、結局やめた。
「ハローハロー。こちら桂。応答せよ、応答せよ」
 そして今となるが、高杉からの応答は相変わらずない。一方的な桂の応答は、もう何度目なのかわかったものではなかった。寝転がろうとしてみれば桂から睨みという制止がかかる。溜め息が出なかったのは、某有名なジンクスが脳を占めているからで。
「ハローハロー。こちら桂。応答せよ、応答せよ」
 不意に天井を見上げてみれば、うすく汚れた蛍光灯と目が合う。窓から差し込む日差しは橙がかった色だったが、こうしていると時間の感覚がおかしくなりそうだ。高杉はそのまましばし逡巡し、もはや持っていることを忘れかけていた紙コップから伸びる白い糸を指でなぞる。
「ハローハロー。こちら桂。応答せよ、応答せよ」
「おい桂。この部屋、泊まるつもりで借りてんのか」
 ようやく口を開いた高杉に、桂はちょっとした驚きを表情に見せた。しかし返事はない。高杉はその理由を脳内で舐めやって、糸電話を投げ捨てる。あっ、という声なき声が耳に届く。
 二人の距離は人二人分あったが、高すぎにとってみればなんてことはない。投げ捨てた数秒後、桂の胸倉は高杉の胸倉にあった。くっと喉から笑いが沸く。
「ハローハロー。こちら高杉。口付けをしたのち、俺を解放せよ」


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -