企画用 | ナノ
坂田銀時×坂本辰馬



「Hello、Hello!」
「うるっせぇ黙れもじゃくそやろー」
 耳をキンと刺した声に対し、銀時は素早く言葉を返した。そのこめかみには青筋がうすく浮かんでいる。
「アッハッハッひどいの金時〜。珍しくわしからの電話ぜよ?」
 銀時の返答に表情相応の感情はこもっていたはずだが、電話の向こうに対する辰馬は気にした様子もなく笑う。久方ぶりに聞いた声だが銀時の苛立ちを募らせる箇所には、まったく相違がなかった。
「銀時な。そもそも電話してきたのなんか初めてだろうが、テメーどっから入手したここの電話番号」
「そら新一くんに決まっとるろー」
「おいその間違いはアウトだ。某有名子ども向けアニメから苦情が来る」
 再び電話口から大きな声が響いてきて、銀時はさっと受話器を一度耳から離す。そして椅子の背もたれに身を預ければ、視界いっぱいに万事屋の室内の様子が見渡せた。
「あ、そうじゃ。おチビさんたちはおるがか?」
 その中には、騒がしい二人の姿はない。
「いや、今は留守。神楽たちに用か?」
「んん、いや。……いや、いや」
 曖昧な返事に銀時は訝しげに眉間にしわを寄せる。おまけに言葉も止まってしまうので、銀時の脳にはいくつか切り出される内容の予想が浮かんできた。が、銀時から言葉を催促することはない。自分から切り出す内容もないので、ただただ黙っているばかりである。
 数秒の沈黙が流れた。それは辰馬から電話が来る前と同じ静けさだったが、話す相手がいる今はとても重く性質の悪いものとなって銀時の肩にずしりと乗ってくる。
「今、そっちの様子はどんな感じじゃ?」
 だからこそその状況を打ち破られたときは、思わず心底ほっとした。
「どんなって……普通、平和。最近はあんまうるせーのも来ねーし」
 答えながらも、銀時の中にはいつものメンバーとかわるがわる馬鹿なことをやっていた記憶がのぼってきたが、あえて口上しなかった。する必要もなかったということでもあるが、銀時の面倒くさがりな性格がここに出ていた。
「ほうか、平和なのはええことじゃ。外は?今の天気とか、どうじゃ」
 聞こえてくる声は常と同じく明るい。銀時は一瞬閉口し、背を向けていた窓へ振り返ってみれば、大きな窓からは昨日見た景色と大して変わらない風景画あった。とりあえず所謂アベックがいたので、びっと中指を立てて見下す。
「天気はまあ、いいんじゃね?今日もうじゃうじゃ人が歩いてますよっと。リア充死ね」
 ファック、と付け加えれば、辰馬の口からは再び笑い声が上がる。再び一度受話器から耳を離すが、視線は街並みをとらえたままであった。気だるげな表情を変えず、受話器から笑い声が消えても耳にそれは触れなかった。
 金時、と呼ばれる。銀時と一字違いである呼び名に、辰馬の耳にはつっこみすら届かなかった。二度目の沈黙が走るかと思われたが、銀時の言葉はそれより早く発せられた。
「あ、やっぱ天気悪いわ。人全然いない、……いや映画の撮影やってっかな、おっとリア充が爆発した。雪降ってきたわーあっ!あそこには将軍が」
「はあ?」
 受話器を耳に押し当て、その直後に今まで辰馬の口から聞いたことのない声音が届く。銀時は馬鹿にしたように笑った。街並みから視線を室内へ入れ、深く背もたれにもたれかかる。
「電話でなら、いくらでも嘘をつけんだよ。オメー俺の言葉まんま信じやがって、馬鹿ですかー?……今の江戸の様子が知りたいなら、」
 続く言葉に対する辰馬の表情を、銀時は知る術もない。


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