偽者を神様は愛してくれない。 | ナノ




金造×柔造


あのくそ憎たらしい青い夜が始まる16年前まで、柔兄はたしかに「弟」やった。俺のっちゅうわけやない。俺はまだ4歳やったからあんまり記憶は深ないけども、16年前には一番上の兄ちゃんがおった。俺らよりだいぶ年の離れた兄ちゃん。今現在俺にくどくど説教垂れてくる柔兄も、その兄ちゃんにきっと今の俺とおんなしことをされとったんや。まったく想像がつかんけれども。
柔兄はどんな我が儘を言うガキやったんやろか。少なくとも俺の前では、柔兄は我が儘を言ったことがないように思える。いいとこ蝮と同じクラスは憂鬱やぁ文句垂れてたくらいか、でもそれやって本気やない。ガキらしい、学生らしい我が儘は、俺の記憶違いやなければきっと一度だって聞いたことがない。廉造もこれを聞いたらああ、たしかにと頷くやろう。
遠慮しているわけではない、と思う。ないと信じたい。だってお前らはまだまだガキやなぁと頭を撫でる手には確かに温もりがあるし、笑みも優しい。もし俺らに遠慮しているんなら、それは嘘になるっちゅうことやないか。俺は柔兄の笑顔がいっとう好きや。そんないっとう好きなとこを、嘘やとは、信じたくないし思いたくもない。
そんなら何があって我が儘を言わんのか。大体見当はつくけれど、俺はいつもその事実に目を瞑る。やからいっつもここまでは考えて、そっから先にはいつまでたっても進まれへん。ただわかるのは、柔兄はくそったれなほどくそ真面目で、俺らの兄貴やっちゅうこと。

「おんゴルァお前聞いてんのかア゛ァ?上の空でぼけっとしとんやないぞダァホが」
「えっあっすんまへんつい考え事ぎゃああああ錫杖は堪忍!!貫通する投げんであっそれ俺の錫杖ォォォォォオ!?」

どたばたどたばた。そんでまたいつもの馬鹿騒ぎの繰り返し。俺が二十になっても、五十になっても。一番上の兄ちゃんがいなくなってしまったからには柔兄は「兄」でしかない。この関係は一生続くし、この馬鹿騒ぎもまた柔兄が死ぬまで続いてく。
ただ、「弟」である志摩柔造はどこに行ってしまったんやろう。遠いあの日に思いを馳せながら、俺はお堅い拳骨を頭に一発喰らって意識を飛ばしたのでした。












イコールにはほど遠い


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