偽者を神様は愛してくれない。 | ナノ




金造×柔造(企画用)


「分かれへんもんやなあ」

汚い嗚咽を、垂れる涙を鼻水を、それでも金造は拒まなかった。揺れることもない短い黒髪の下、そこに向かう視線はただただ一途である。柔造はその視線を感じながら、死ぬなら今がいいと思い、逃げるとは違う意図で金造の胸板に縋りつくように額を置いた。ばくんばくんとそこが跳ねているように感じたが、しゃくりあげるたひに自分の体が揺れていて、本当にそこが跳ねているのかは定かでない。と柔造は判断して、唇を噛み締めた。暫く黙っている間に、暖かい手がそろりと柔造の頭に置かれる。

「ほんまに」

視線の行き場をなくした金造は、天井を見上げている。見慣れたが、昔より汚く、昔より近くなった天井だ。そこに金造は、つい思いを馳せるべくとしかけたが、聴覚を奪う嗚咽に漸く視線が落ちる。柔造の頭を撫でるのは初めてだった。少しちくりとする感覚が、何故だか心地よい。
柔造はまだ泣いていた。その時脳裏に過ぎったのは、一番上の兄が死んだ時だとか、幼い頃の、くだらないことで泣いた日々だった。いつの間にか縋ることが得意になっていた、柔造の。
拙い動作で、金造は体を下へずらして、柔造の髪に顔を埋められる位置にまで移動した。柔造は抵抗をしなかったどころか、協力的に腰を持ち上げてまでしてくれる。その間もひっくりひっくり漏れる嗚咽、金造にまで伝播してしまいそうだった。

「分からんことばっかで、難しなあ」

柔らかい優しい金造の声。柔造が嗚咽の合間に小さく、それに対してごめん、と囁いた。鼻を啜ることすら辛そうなのにと、金造は思わず顔を歪めた。しかしなるべく、穏やかに笑う。
ええよ、と金造は言う。

「なあ。俺も好きやよ、柔兄」













透明なエゴで僕を殺してしまわないで。
(幸せすぎて泣いてしまいそうだよ)






―――――――――――――――――――

ほんまは引かないかんて、わかってんのや。俺は阿呆やない。天才でもないけど、人並み以上の知識や、人並みの人情はある。それやから、引かないかんて、わかってはいるんや。ただ実行出来ひんだけ。そう、俺は阿呆などではなく卑怯者。臆病気取った鬼や、畜生や。
ずうと想うてた弟に気持ち悪いと言うてほしかった。なんて思いながら、おんと頷いてもらえるだろうことを知っとった。金造の想いに気付いていて利用したんや、俺は。そのせいでこの先金造にたくさんの苦労を背負わせてく。ほんまに、あの瞬間に死ねてしまえたらよかった。
なぁ金造。俺たち兄弟やねんで。男同士やねんで。俺、早うに、死ぬで。
そんなことを伝えてやれたらよかったのに、俺んなかの臆病気取りが蓋をする。まだ、まだと制止する。
俺はな、金造。お前の笑顔が怖いんや。…それでもその笑顔ごとお前に恋しとる、兄ちゃんが死ぬその日まで、どうかどうか、そのまんまでいたってな。
愛しとるよ。



たんほ





第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -