偽者を神様は愛してくれない。 | ナノ




金造×柔造


「何してんねん」
頭上から声が降ってきた。見上げると、寝巻きに着替えた風呂上がりの柔造が怪訝そうな視線をこちらに向けてきている。
柔造のいない間ずうと柔造部屋の窓際にある机に突っ伏していた金造は、その視線を浴びながら、ふんわりと香る色気のない石鹸の匂いを鼻腔に焼き付けていた。
「柔兄、風呂上がんの早いなあ」
「お前が早いだけや。…で、ほんまに何してん」
「んー」
また机に突っ伏して眠る金造を、柔造は叱ろうと思って、やめた。少しばかり眠そうな雰囲気があるし、部屋を荒らされているわけではないのだから特に問題はないと判断したからだ。金造は家族であるし、勝手に部屋に入るなと怒るような歳でもない。―そう考えて許してしまうあたり、やはり柔造は甘いのだろう。なんとも言えないため息を吐き出して、柔造は布団を敷くべくその場を離れる準備をする。が、タイミングよく金造に寝巻きの裾を掴まれる。あえなく持ち上げた腰は中途に終わった。
「金造?」
どないしてんと怪訝に問いかけてみるが、返事はんー、ばかりだ。そんなに眠いのだろうかと思う。この手さえ離してくれれば金造にかけるシーツでも用意してやるのに。しかし、無理に解こうとも思わない。
不意に完全に染まりきった金の髪が部屋の明かりにきらりと光ったので、その場から動くことを許されなくなった柔造は、暇つぶし程度にと少し金造の頭を撫でてやる。ワックスを使っている(らしい)ため、少し髪はかたくなっていたが、しかしあまりワックスの使われていない場所は昔の触り心地とまったく変わらない。さらさらで、手にそのすべすべ感が伝わってきて、撫でていると心地よくなる。柔造はもう髪を切ってしまったし、廉造も髪を切ってしまった上変な色に染め、更には遠くへ行ってしまった。遠くへ行ってしまったのはまあ仕方のないことだが、幼少のあの触り心地がなくなってしまうのはなんだか寂しいものだ。なので、昔のまま残っている金造の髪の柔らかさが、柔造は好きだったりする。
ポマードなんかつけんでもええのになあ。心の中でぽつりと呟きつつ手を離すと、くっと笑い声が聞こえた。また、柔造の眉間の皺が怪訝に寄った。
「何笑てん」
隠すつもりもないのか、くっくと喉を鳴らすのに合わせて身を揺らす金造。頭がいかれたのかと少し心配したものの、そういえばそれは昔からであった。ここにも昔と変わらない金造が残っている。歳を考えれば悲しくなるが、嬉しいという思いは素直に、純粋にあった。
いんや、と笑いながら、金造がひらりと柔造の裾を握っていない方の片手を振る。
「柔兄は、やっぱり兄貴なんやなあ思て」
顔を上げることなく、突然そういわれる。柔造は突拍子もない発言にきょとりと目を少し大きく丸くしてから、どういうことやとその真意を問うた。顔も覗き込んでみるが、ひらりと振っていた片手をまた戻して素早く顔を隠してしまった。唇を尖らせる。
「すごいわ。なんでわかるん?」
まったく理解ができない。何もわかっていないのに、そんなことを聞かれたって。
そうして尚も笑い続ける金造に更に柔造はあきれ返って、もうひとつため息を吐くと、金造の手を振り切って立ち上がった。数歩歩けば辿り着く押し入れ、それを勢いよく開いて自分の布団をまず床に投げ捨て、少し厚めのシーツを取り出す。そして、それを持って金造の元へ戻り、一向に顔を上げようとしない(それどころか両手で隠しやがった)、小さくなっているその背中になるべく優しくかけてやった。
「もう、ここで寝てええから、ゆっくりしい。明日も早いで」
もう一度、金造の笑い声が聞こえた。と思うと、はあいと返事がきて、片手をひらひら振られる。もう顔を覗こうとは思わなかった。
床に投げ捨てた布団を丁寧に敷いて、電気を消す。真っ暗になってしまうかと思ったが、机のそばの窓から差し込む星の光が存外明るくて、気にはならなかった。
「おやすみ」
そう呟いて、柔造は布団に潜り込む。その一瞬前に見えた金造の髪が星の光にまたきらりと光って、名前のまんまになってしもたなあとぼんやり思って、無理矢理意識を飛ばす。夢の中は真っ白だった。
どれくらいか時間が経ったころ、柔兄だいすきと金造が呟いたので、柔造は寝言でおうと返してやった。









きらきらのかけら。


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