鼓動を感じる(土御門/甘)






暗闇の中、彼はこちらを悲しそうに見ていた。わたしは彼に向かって笑顔を向けるのに対して彼はますます悲しそうな顔をするのだ。

「どう、したの?」

「……もう、お別れだ」

「…え?」

「さよならだよ、なあなまえ…俺はお前を愛していた」


彼のいつもの口調はなく、真面目な顔つきでこちらを見る。どうしてそんな事を言うの?ねえ、どうしてなの?わたしは彼に手を伸ばすけど彼は背を向けて行ってしまう、


「やだ…やだ!行かないで!―――っ」


その時、なまえ!と声が聞こえた。誰……と感じた時には天井が見えていた。横には心配そうに私の手をつかむ元春が、


「――…、夢?」

「大丈夫か?なまえ…」

「元春…元春…っ!」


先ほど見た夢は酷くリアルだった。元春は最近怪我をして帰ってくる事が多くて、あんな夢を見たのもその所為なのかもしれないと考えると、とても怖くなって私は元春の胸に飛び込んでしまった。


「怖い夢でも見たのかにゃ?」

「………」

「……俺は、ここに居るぜよ」

「―――ッ!」


何かを察したように、優しい声色で宥める元春にじわりと涙が溢れてきた。


「こわっ、かった!元春がっ…どこ、かとおく…っ行っちゃって!」

「俺は、どこにも行かないぜ」

「っうん……」

「俺がなまえを残してどこかに行く訳ないにゃー?」

「そうだよ、ね」


元春の一つ一つの言葉が心に染み渡る。わたしは、この人がこんなにも好きだったんだと感じたと共に、とても甘えたくなった。


「ん、可愛いぜよなまえ」

「…ちょ、ん、もとはる…」


ちゅ、と顔や手に口付けてくる元春にくすぐったいと体を動かすと、思い切り抱き締められた。


「ほら、俺はちゃんとここにいるにゃ」

「……暖かいね、元春」

「なまえの方が暖かいにゃー!っと、不安にさせて悪いぜよ…」

「もういいよ、夢なんかよりもこの温もりの方が確実だもの」


だから、もっとすがりついて、離さないで。わたしは元春の胸板に頭を寄せた、トクントクンと確かに鼓動を感じる、それがとても安心する。

その安心に包まれて、わたしはいつの間にか眠りについていた。






20110917



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