近づきたいよ君の理想に(土御門/甘)
「つまりロリが最強だと言う事だにゃー!」
「てめェ、バニーガールの話じゃなくなってんじゃねえか!」
「……呆れた、またやってんのアイツら」
「吹寄ちゃんそのパン何味…?」
「ん?なんか…美味しいわよ」
お昼休みに教室でご飯を食べていると上条たちがまた揉めはじめた。いつもと同じような会話だが、わたしは聞き飽きた。それよりも吹寄が食べている元気モリモリカルシウムパンといういかにも不味そうな奴の方が気になった。
「だいたい…ハァ、なまえがいるっていうのにシスコンというかロリコンというか」
「……んー、しょうがないよ男の子だもん」
しょうがない、と自分に言い聞かせるが内心はモヤモヤしているのだ。なんせ土御門は義妹大好き人間で(付き合ったあとも)ちらほら変な発言をしていたり。メイドさんも大好きだし。
でもでも、ちょっとは彼の理想に近づきたいし(一応彼女だし)しょうがないわたしも本気を出そう。
次の休日、わたしは舞夏ちゃんと一緒に土御門の部屋に居た。部屋の主人は補習中とかで留守なのだ。で、何故わたしが居るのかといいますとですね
「よ、よろしく舞夏ちゃん!」
「任せなさいなー」
「面倒かけてごめんね…」
「不甲斐ない兄貴が悪いのさ!というかなまえがメイド服着たいといい出した時はなー驚いたぞ」
舞夏ちゃんはにやにやと笑いながらこちらを見る。わたしは舞夏ちゃんがメイド服を用意してくれたので、それを眺めていた。
「で、直観的にどれがいーんだ?なまえは!」
「わ、わたし…これがいいかな?舞夏ちゃんとお揃いがいいかも」
「嬉しいですなー!兄貴も可愛い彼女を持ったな…」
うんうんなんて頷く舞夏に頬を赤くする。可愛いだなんてお世辞でもうれしい!
「じゃ、着替えるぞー」
「う…うん!指導よろしくお願いします先生っ」
「先生だなんて照れるなー」
しかしメイド服なんか初めてだから(意外と貴重な体験だなあ)てこずるわたし。なんとか舞夏ちゃんに協力してもらって着れたのだが、タイミングがいいのか悪いのか扉が開いた。
「ただい…ま……にゃー…」
「――――ッつ、つち!?」
「おお、兄貴微妙なタイミングなんだぞー」
わたしたち(というかわたし)を見て目を丸くする土御門と、じゃあお邪魔なのでー!と言って土御門の横をするりと通り抜けてしまう舞夏。
気まずい雰囲気。の中口を開いたのは土御門の方で、
「えっと…なまえだよな?」
「そ、そうだよ!」
すっごく恥ずかしくなってわたしは隅っこの方に体育座りをする。元は土御門の理想(理想?)に近づこうとしたワケで土御門に見せるというのは計画の内に入っていたのにいざとなると恥ずかしくて身動きができない。
「なんで今まで躊躇してたんだろうか、悔やまれるにゃー」
「?なに……うわっ」
「可愛いぜ、なまえ」
土御門にいきなり抱き締められたわたし。彼は新境地だにゃーとか呑気な事を言っているけどわたしは心臓が爆発しそう。
「でも、いきなりどうしたんだにゃ?メイド服だなんて…」
「そ…それは土御門がメイドが好きとかロリが好きとか舞夏ちゃんが好きとか言うから私はまとめてその理想に近づきたいがために頑張ったというかですね…」
もじもじしながら、目をそらして彼に告げると彼はこちらを見なおした。
「もしかして不安にさせてた…感じですたい?」
「ちが…っ!わたしがしたくてしただけだから…」
土御門が好きだから。そう言えば彼はますます強くわたしを抱き締めた。く、苦しい!
「やばいにゃー…可愛いとかそういうので言い表わせないくらいだぜい…」
「つ…っつちみかど?」
「名前で呼んでくれにゃー」
「…………もとはる」
わたしが小さな小さな声で言うと、彼は満足そうに目を細めた。そして耳元で「愛してるぜよ」と言われた。
(写メらせてくれにゃ!)
(や、やだよっ)
(お願いだにゃー!にゃー?)
(嫌だにゃー!…あ)
(……これこそ萌えだにゃー)
宇多田ヒカル
Can you keep a secret より
20111009
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