「志摩、わたしにくっついてる暇があるならキリクの用意」

「なん?ほんまに見られて…」

「多分低級か中級かだろうけど、中々仕掛けてこない」

「きっとなまえちゃんがかいらしくて見惚れてるんよ…はっ!でもなまえちゃんは俺のやからあげへんで?!」

「いや志摩のでもないんだけどね?聞いてる?」



こんな真面目な場面でもバカを言う志摩をほっといてわたしはポケットから一枚の紙を出した。


「志摩、少しだけ離れて?」

「何するんや?」

「式神を呼ぶの」


実戦では使った事がないんだけど、白(ましろ)のやつちゃんと出てきてくれるかなあ?と少々心配になりながらもわたしは召喚をはじめる。


「我祈りて願わくは姿を現さんことを……白!」


ぼんっ、と辺り一面が煙に覆われる。近くには獣のうなり声、くそ!仕掛けてきた?!白はまだ現れない、と後ろを振り向けばゴブリンらしき物体がこちらに斧を振りかざしていた。


「なまえちゃん!危ない!」

「え…っ…、」

「ぐっ……早う、逃げ…」

「志摩…っ!」


わたしに怪我はなかった、しかし志摩がわたしを庇って怪我を負ってしまった。わたしの所為で、早く召喚していれば。


「はぁい、呼んだ?」

「何してんのよこのオカマ!来るのが遅いのよバカっ…」

「ちょっ、いきなり罵倒?!久しぶりに会ったっていうのに可愛くないわね…」

「う…うるさい!今はそれどころじゃなくて、志摩が!じゃなくてゴブリンを…」

「とりあえず落ち着きなさいよ」


白はめんどくさそうにため息を吐きながら、今は逃げる事を優先にした方がいいわね。とわたしと志摩を背中に乗せて走りだした。



「志摩、大丈夫…っ?」

「……おん、なんとか…」

「でも血が…結構…!」

「なんとかなるやろ…この式神さんは優秀やからな…」

「あら、この子見る目があるじゃない!アタシのタイプだわ」



志摩はそれこそ余裕を振る舞っていたけど、出血量がハンパじゃない(わたしを庇った所為で)下を向いていたら志摩がわたしの頭を撫でてきた。いつもなら抵抗するけど怪我人だし悪化したら困るし我慢だ我慢。


「なまえちゃんが責任を感じることはあらへんよ」

「―――…!」

「庇ったんは俺の勝手やし、好きな女の子守れたんやから俺としては満足なんやけど」

「すっ…は、はあ?!何、かっこつけてんのさ!いいから黙ってなよ」

「おん…」


白が雪男君を探してくれたおかげで、志摩はすぐに応急処置を受けれた。わたしは式神を使った所為で少し疲れてしまった。(もうちょい鍛えないと!)


「では、志摩君となまえさんは先に戻って下さい」

「ゴブリンは…」

「それは僕がなんとかしておきますから、心配しないで下さい」


いつもの笑顔で雪男君はこちらを見る。わたしは志摩に肩をかして寮へと戻る事にした、


「しかし…ゴブリンなんて中級、この試験には入れてなかったはずなのに…」


雪男は、ぼそりと呟いた。しかしその呟きは他の騒音にかき消されることになったが。


その頃志摩となまえは、町を歩いていた。しかし会話がない、いつもなら志摩が変な事を言ったりして会話が弾むのに、やっぱり具合が悪いのだろうか。早く病院に行った方がいいよ、ね?


「あのさ、志摩…」

「………」

「怪我、早く治してね?べ、べつに心配かっていうとそういうワケじゃないけどさ、いつもの志摩じゃないと調子が「Cやな」…は?」

いつもの志摩じゃないと調子が狂う、そう言おうとしたのに彼はあろうことか腕を組んで堂々自信満々に「C」と言い出した。いや、いったい何が……まさか


「し、志摩……」

「なまえちゃんはCやな!おん、前々から気になっとったんやけど間近で見るとなかなかやね!」

「……っ、わ、わたしが、具合悪いのかと思って心配してたのに、あんたは……バカああ!」

「え?な、なんや?俺なんかしたんかい!」

「うるさいエロ大魔王!」


わたしは志摩を置いてずんずん先に進みはじめた。なんだか、心配したわたしがバカみたいだ。でも、志摩が元気でよかったかも。



  静かだと調子が狂う
  (…気のせいでした!)


(でも、怪我は大丈夫?)
(おん!かすり傷やからっ)
(そっか……)
(あかん!そのホッとした顔
めっちゃかいらしい!!)
(きゃあ!ち、ちょっと!?)


     20111012




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