糖蜜ハニー(→top) カーテンの隙間から部屋へ侵入してくる暖かい日だまりが部屋に充満する中、ベッドの上でお互い裸とは不健康極まりない。 新年早々これなんだから、まったく、いつもと変わりないじゃないかとさえ思えてくる。 「な、もっかい言えよ」 「嫌だ」 「俺のこと好き?」 「〜〜っ!だからもう言わないって言ってるだろ!」 ただ一つ違うことは、こうしてユースタス屋が昨日(今日?)の情事をぶり返して俺を羞恥の渦に突き落とすぐらいだろうか。 座ったままユースタス屋に後ろから抱き締められて囁かれるのは甘ったるい余韻を含んだ言葉たちで、そいつらはただただ俺の頬を赤く染めるのに忙しい。 ユースタス屋は情事中、俺が必死になって言った「好き」が大変お気に召したらしく、こうして俺を逃れられないよう抱き締めて耳元で強請ってくる。時折耳裏にキスを落とされたりなんかして、未だ熱の燻っている体にはあまりよろしくない状況だった。いつもはそんなこと言ってこないのに、今日に限ってユースタス屋は甘ったれだ。 それに、じゃあユースタス屋が言えよ、と言えばすぐさま「好きだ」と低くて甘い声で囁かれてしまってどうしようもない。 ロー、好きだ、愛してる、なんて際限なく言われてしまえば思わず言われているこっちが止めに入ってしまうほど。恥ずかしくて顔が見られない。 「駄目か?…嫌?」 「…っ」 だからユースタス屋のくせに何でそういう声出すんだよ!と声を大にして叫びたくなった。 本当にずるい、そんなの。 ぎゅって抱き締められてそんな声で呟かれたら駄目だなんて言えなくなる。拒否なんて出来なくなる。 「一回だけだからな!」 「…!」 「っ…、好き、キッド…大好き」 こうなったら恥も外聞も気にしていられない。ユースタス屋の回された腕に手を置くと小さな声でぼそりと呟いた。 きっと今の俺の顔は耳まで真っ赤だろうな、なんて思って恥ずかしくて俯く。そしたら無理矢理ユースタス屋の方を向かされて、かち合った視線に赤い顔がさらに赤くなっていった。 「っ、やだ、離せ!」 「離さない」 「…っ」 「可愛い、ロー…好きだ。俺も」 「っ、ぁ…」 抵抗なんてのはみるみるうちになくなっていってしまって。ぎゅっと強く抱き締められて顔中にキスを落とされるともう何も出来なくなる。ただ甘んじるだけ。 好きだよ、とユースタス屋に囁かれてどうしようもないくらい顔が熱い。 ばか、俺も…とだけ呟いてユースタス屋の肩に顔を埋めると笑いながら頭を優しく撫でられた。 「なぁ、」 「…なに?」 「昨日さ、神社で何祈った?」 ユースタス屋の優しい手つきが俺を深い眠りへと誘う。 重い瞼に半分眠りながら聞けば、ユースタス屋に体を少し離され顔を覗き込まれた。だけど言われた言葉に処理が追いつかなくて、ぼんやりした瞳で見つめ返す。 「…なんで?」 「すげェ時間かかってたから。気になる」 今更何だと思ったが、ユースタス屋に頬を撫でられてその考えもどうでもよくなってしまう。 面倒くさいなと思いつつ口を開けようとして、そこでぱちりと目が覚めた。 あんな内容、言えるわけがない。 「っ、言うわけねーだろ!」 「いいだろ別に。減るもんじゃねェし」 「言ったら叶わなくなる!」 「なら俺が叶えてやるよ」 焦ってぐいっとユースタス屋を押し返すも、腰に回された腕がそれを阻止する。 まさかそんな返しがくるとは思わなくて、思わず言葉に詰まるとくつりとユースタス屋に笑われた。 そんな言えないようなことでもお願いしてたのか?と笑われて思わず頬が赤くなる。 違う!と怒鳴ればじゃあ教えて、と言われてしまってユースタス屋を睨み付けると唸った。何だかこんなんばっかの気がする。 「ロー…な、教えて?」 「っ、〜〜!絶対笑うなよ!」 「笑わねェよ」 耳元で囁かれてもうやけくそだと思った。こうなったユースタス屋は誰にも止められないし、言わなかったら言わなかったで変なこと言われるし。 キッとユースタス屋を睨み付けるとその頬を抓った。 「ちょ、痛」 「、とずっと…に、ますように」 「え?聞こえねー」 「だから!ユースタス屋とずっと一緒にいれます、ように…って」 聞こえないと眉根を寄せたユースタス屋に半ば怒鳴るように声を荒げた。だけどやっぱり最後の方になるにつれてだんだん小さくなっていって。 終いにはユースタス屋の肩に顔を埋めてしまう。顔から湯気が出てんじゃないかと思うほど熱い。 「そんなの、俺がお前を手放す訳ねェだろ」 「…ん」 「それから?」 「…もっと優しくして、ほしい」 「十分優し」 「………」 「あー、分かったからそんな目で見んなよ。努力する」 「努力するだけかよ…」 「虐めたくなるようなことするお前が悪い」 「なっ…!」 「はいはい、あとは?」 「……」 「ロー?」 「もっと…」 「ん?」 「もっと俺のこと…好きになって」 言った。言ってしまった。 一番言わないでおこうと思っていたのに。 だってユースタス屋が悪いんだ。あんな優しい声で言われたら本当に全部叶えてくれるんじゃないかって思ってしまう。そう思わせるユースタス屋が悪い。 「…キッド?」 「そりゃ…難しいな」 「っ…!」 なのに、少しの沈黙のあと眉根を寄せたユースタス屋が言った言葉は是非の含まれていないもの。困ったような声色で言われてズキリと胸が痛んだ。 やっぱりこんなの重かったかな、なんて思ったら思わず泣きそうになってしまって。ぐっと唇を噛み締めていればゆっくりと顔を上げさせられて優しく頬にキスされた。 「お前なんか変なこと考えてるだろ」 「…?」 「俺はお前が思っている以上にローが好きなわけ。…だからもうこれ以上どうやって愛せってぐらい、愛してんの」 「…っ!」 「はは、すげェ顔真っ赤」 「うるさいっ」 だってまさかそんな台詞がくるとは思わなくて。これで満足か?と笑ったユースタス屋に問いかけられてこくりと小さく頷いた。 本当にずるい。これ以上俺を惚れさせてどうすんだ。 |