糖蜜ハニー(→top) (来年もユースタス屋と一緒にいれますように。もっと俺のこと好きになってもらえますように。あ、でも変態はいらない…もっと優しくしてくれますように。それからそれから…、) 「…お前百円でどんだけ祈る気だよ」 「百個」 「一つ一円か…もう行くぞ。後ろも並んでんだから」 「あ、待っておみくじしてから!」 すでに用は終わったというように隣に並んでいたユースタス屋は寒そうに首を竦めると、まだ終わらないのかと顔を顰めた。それに適当に返しながら、とりとめもないことを胸のうちに描いていく。そんな俺にとうとう痺れを切らしたのか、一人で石段を降りていこうとするユースタス屋の腕を慌てて掴んだ。 一度列から外れてしまえばもう戻ることは出来ない。まだ十個しか言ってないのに、と下からジトリとユースタス屋を睨みつけてやると、何をそんなに願う事があるんだか、と呆れたような顔をされた。俺にしてみれば三秒で終わったユースタス屋の方が不思議なぐらいだってのに。 列から外れたので仕方なくユースタス屋を引っ張って賽銭箱の近くにあるおみくじのところまで連れていく。第二のメインはこれだ。 でも俺、ここ最近大吉しか出てないからな。また大吉がでるといいけど…何が出るかな。 「ユースタス屋はしない?」 「しねェ。どうせ大吉が出る」 「なんで言いきれんだよ…っと、……大吉」 「だろ?」 「…もしかしてこれしか入ってないのか?」 「んなことねェだろ。連続で大凶出たことあるし」 ただ普通にあたるんだよそこのおみくじ、と言ったユースタス屋は今度こそ石段を降りていってしまったのでその後ろ姿を追った。 それほど大きな神社ではないのにもう少しで日付が変わろうとしているせいか、あと数時間で終わる今年とやってくる新年を祝う参拝者でごった返していた。 来る人来る人と逆の方向に歩きながら、どうせなら俺も年明けが良かったなと自分が並び終わった長蛇の列を見て思う。だけどユースタス屋は待つのは嫌いだし寒いのもっと嫌いで、だから仕方なく早く行くことにした。 そして正月休みはずっとグダグダするらしい。…まあユースタス屋とずっと一緒にいれるのはいいけどさ。 「なぁ、なんであそこのおみくじはあたるって分かんの?連続で大凶出たとき最悪だったのか?」 「まあ…それなりに最悪だったな」 「なんだそれ。いつの話?」 「大分前」 「前って?」 「…四、五年前」 「四、五年前って…、!ユースタス屋!」 「だからその代わり『どうせ大吉がでる』からやらないって言ったろ?」 四、五年前…思い当たる節がある。ついつい昔を思い出し、拗ねたような声を出した俺にフォローともとれるユースタス屋の優しい声が頭上から降り注いだ。 今は十分幸せだしな?と笑われてその言葉に思わず頬が赤くなる。相変わらず都合がいいな、なんて思いながら。 四、五年前なんて言ったら言わずもがな、俺がまだまだ餓鬼だった時だ。それであれこれ言ってユースタス屋をウンザリさせてたとき。 でもその努力がなかったらいま俺はこうしてユースタス屋の隣にいなかっただろうし、そう考えるとよくめげなかったと餓鬼の自分を褒めてやりたくもなる。 「つかさ、」 「ん?」 「なんで大吉が出るって分かったの?」 出る前から予想していたユースタス屋。それってつまり…と思いながらわざとからかうように言ってみる。 ユースタス屋の赤くなった顔が見れたら面白いな、なんて単純な出来心。 「そりゃあ、俺がお前を不幸せにする訳ないからに決まってんだろ」 「っ!!」 「はは、顔真っ赤」 「うるさいっ」 なのにこの返しときたもんだ。 ユースタス屋をちょっとからかってやろうと思って言っただけなのに、予想していなかった言葉で返されて思わず頬が赤くなる。そんな自分に悔し紛れにユースタス屋を睨みつけてやれば、にやにやとした笑みで呆気なくかわされた。 余裕綽々、年の差を見せ付けられているようでそれが何だか気に食わない。勝てないんだと、遠まわしに言われているような気がして。 「ユースタス屋!」 「何だいきなり大声出して」 「とっとと帰るぞ!帰ったら飲み比べだ!」 「飲み比べってお前未成年、」 「無礼講だっ」 「いや違うだろ」 そもそも飲み比べって酒の強いもの同士がやるんだぞ?と呆れたように呟いたユースタス屋を無視すると、人混みをかき分けてずんずんと前に進んでいく。 そしたら急に腕を引っ張られて、迷子になりたいのか、と眉根を寄せたユースタス屋にぎゅっと手を握られた。 「っ、ユースタス屋、手、手が、」 「あ?いいだろ別に。誰も気にしちゃいねェよ」 「そ、だけど…」 それに慌ててユースタス屋を見つめれば、気にするなと何とも素っ気なく言われてしまい。 確かに周りはみんな自分の世界だ。家族といたり友人といたり恋人といたりして、一々他人に気遣っている奴は誰もいない。それに加えてこの人混み。 だけど何だか気恥ずかしくてその手を握り返すことが出来ず、ユースタス屋に握られたままになってしまう。赤い顔も見られたくないと思えば、ついつい俯いてしまって。 「…ロー」 「っ…」 「手、繋ぎたい。駄目か?」 「ぁ…ぅっ、だめ、じゃない…」 そんな俺の心情を見透かしたようにぼそりと耳元で囁かれた言葉。甘く余韻を含んだ声で名前を呼ばれて赤い顔がさらに赤くなる。 だってそんなの、ズルい。断れる訳がないんだ。 こくりと頷いて控え目に握り返せばユースタス屋が満足そうに笑う。羞恥でいっぱいいっぱいの自分に、あの宣言をしたあとにこれか、と思うと本当にユースタス屋に勝てる気がしなくなってきた。 「帰り、コンビニ寄るか」 「え?」 「家にあんま酒ねェし…どうせまだ起きてるから何か買うだろ?」 「あ、うん、寄る」 弱気になっていたらユースタス屋に声をかけられて適当に頷く。じゃあ甘酒でも買うか、とにやにや笑ったユースタス屋にやっぱりカチンときて、子供扱いするな!とユースタス屋を睨み付けた。 やっぱりいかにも「大人です」って俺を餓鬼扱いするユースタス屋は気に食わない。さっきの自分はどこへやら、絶対酔い潰して間抜けなところを見てやる!と心に固く誓うと、苦笑する声を尻目にユースタス屋を引っ張って帰り道を急いだ。 |