Log | ナノ

 甘いだけの嘘より愛を

(兄×弟)


静かな部屋に響くのはカリカリとシャーペンをノートに走らせる音だけで、俺はそれを聞きながらごろりとベッドの上で寝返りを打った。
キッドが好きな雑誌を読み漁るのにも飽きてしまって、テレビも見れないからこうしてベッドの上でごろごろしてる。キッドはお勉強中にテレビを点けると集中出来ないと言って怒るから。
別にキッドの邪魔をしたい訳じゃないからちゃんと言うことを聞いてる。俺って偉い。健気。

それでも何もやることがないのは暇だ。読みかけの本もあるけど今は読みたい気分じゃないし、時計がカチカチ動く音を聞きながら俺はベッドに寝転がってキッドの後ろ姿を見つめているだけ。
このまま寝てしまうという手もあるが、いつ何時キッドのお勉強が終わるとも分からない。あと一時間かかるかもしれないし、たった十分で終わるかも。
そしたら俺の相手をしてくれないかな、なんて考えているうちは到底寝れるわけがなかった。まして自分の部屋に戻るなどもっての他で、暇すぎてどうしようもなくても暇だとは言わない。言えば確実に自分の部屋に戻れと言われるから。

多分今日はもうおしまいなはずなのに、心のどこかでキッドがシャーペンを放り投げて俺にキスしてくれるのを期待してる。そんな自分に呆れつつも体はベッドに横たわったまま。
ぎゅっとシーツを握り締めて深く息を吸い込めば、ベッドからするキッドの匂い。それを胸一杯に吸い込んで、じんわりと体が熱くなる。

もしキッドが運よく構ってくれたとしても、今日はキス以上のことはしてくれないだろう。
だって風呂上がりにスウェットの上だけ着てキッドの部屋に突入したのに全然相手にしてくれなかったし。際どく誘ったつもりなのに、風邪引くから下穿けと怒られたぐらいだ。
それからキッドはずっと机と熱い視線を交わしてる。俺は追い出されるよりマシかと渋々ながら下を穿いて、なるべく邪魔しないように過ごした。邪魔しなければその分早く終わるかと思って。結局今でも終わってないけど。

ちらりと時計を見る。もう十一時半だった。
明日は休みだからきっとキッドもどうでもいいんだろう。じゃなきゃそろそろ寝てる。
その事実に諦めかけていた期待が少しだけ膨らむ。明日は休みなのだ。キッドはまだ起きている。少しぐらい夜の遊びに付き合ってくれたって罰は当たらないはず。
そう考えて勝手に妄想してたらギシリと椅子が音を立てた。続いてシャーペンが机を転がる音。カリカリとした音が止み、キッドは椅子に座って伸びをした。
その光景を見つめて無意識に期待している自分が笑える。だけどこちらを振り向いたキッドを、俺はドキドキしながら見返していた。

「…ロー」
「なんだよ」
「寝るから退け」

淡々と欠伸混じりに告げられたその言葉に、予期していたとは言えやはり期待していた分だけがくりとした。
命令するな、と八つ当たりに近い言葉を吐きながらも起き上がる。でもそうしたくもなるだろ?
勝手にそういう気分になったとはいえ恋人なんだ、そういうときもあるし別に毎日欲情してるって訳じゃないんだからそれを察して何かしらしてほしい。恋人なんだぞ。その前に兄弟でもあるけれど、それを説明すると長くなるからこの際気にしないでおく。

はぁ、とため息を吐くとベッドから立ち上がる。乱れた布団を直し出したキッドを尻目にすごすごと退散だ。全く無駄な時間だったと思う。
そう思うなら直接言えばいいだろうがと思うかもしれないが、言っても今日はそういう気分じゃないと言われるのがオチだろうから。俺の風呂上がりが効果なかった時点で。

「待てよ、ロー」

なのに、ドアノブに手をかけた瞬間後ろからキッドに抱き締められてどくりと心臓が跳ね上がった。

「…なに」

それでも努めて平静を装うと言葉を紡ぐ。頭の中はすぐさま期待で一杯になろうとしていたけれどそれは理性が許さなかった。
だけど、キッドの唇が首筋に当てられて、もしやという考えが頭を擡げてきてしまう。そのままちゅっと耳にキスを落とされて、耳朶を柔く噛まれてびくりと体が震えた。耳は嫌だ。すぐ立っていられなくなる。そう思ったけど言葉にすることが出来なくて、腰に回されたキッドの手をぎゅっと掴んだ。
そしたら舌が耳の中にまで入ってきて、ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てる。縁をなぞられて、熱く息を吹き掛けられるとびくびくと腰が震えた。

「っぁ、ん…っ、キッド、」
「ロー……おやすみ」
「ふ、ぇ…?」

堪えられなくなって振り返ると同時に唇に触れるだけのキスを落とされて、にやりと笑ったキッドに背中を押されてバタンとドアを閉められたのはそのすぐ後だった。
それを理解するのに少しばかり時間がかかったが、ぼーっとする頭と震える膝で考え出せることはたった一つだ。
追い出された。しかも期待させておいたくせに、すごく中途半端なところで。

「っ、〜〜死ね!」




それが昨日の夜の話。あれはマジでムカついた。
だって部屋に戻って一人でするなんて馬鹿みたいに虚しいし、キッドに夜這いかけるのも俺が切羽詰まってるみたいだから絶対にしたくなかった。
俺が出来たのは無理矢理熱を押し込めて目を瞑って眠気が訪れるのをひたすら待つこと。でもなかなか寝つけなくて何度も寝返りを打って、暫くしたら朝になっていた。途中から意識がなかったから多分寝れたんだろうけど、全然疲れはとれてない。
カーテンの隙間から覗く朝陽に目を細目ながら、どうせ休みだしどうでもいいと布団を頭まで被ると視界をシャットアウト。それから十三時ぐらいまで爆睡してた。

ぱちりと目が覚めたときには大分頭もすっきりしていて、リビングに行くとソファに座ってテレビを見ていたキッドと思いっきり目が合った。もちろんシカトで、何となく腹が減ったから冷蔵庫から適当にゼリーを取り出して食べる。
そしたらキッドにちゃんと飯を食えと怒られた。蓋に書いてあったゼロカロリーの文字にもっと怒られて、俺は苛々しながらゼリーを飲むように食べると急いで部屋に戻った。
多分昨日のことを根に持っているとキッドはすぐに気付いただろう。だけど追いかけて部屋に来ないことにも、昨日は悪かったと謝罪の言葉がないことにも苛立ちは募る。俺の性格知ってるくせに!いや、たとえ素直になれたとしても悪いのは絶対キッドだから俺から折れることはしないけど。
部屋にいてもムカムカするからいっそどこかに出掛けようか、そう思ったときに携帯が鳴った。見ればシャチからメールが来ていて。


----------------------

4/1 13:31
From シャチ
To l@super.rookies.com
Sub (no title)

なんかいい嘘ない?

----------------------


はぁ?と思ったがすぐに日付けを見て納得した。四月一日、今日はエイプリルフールだ。
大方ペンギンを驚かせる嘘でも吐きたいんだろう。シャチは嘘吐くのが下手だからな、考えるなんて余計出来ないんだろう。
大嫌いとでも言っておけ、と適当に返すとすぐに携帯が震えて返信が返ってきた。面白そう!ありがとー、だってさ。仲のいいこって。
シャチがペンギンに大嫌いと言っている姿を想像して少し笑ってしまう。ぶっ倒れたりしないかな、ペンギン。
キッドもペンギンぐらい分かりやすくて二つ返事で何でも言うこと聞いてくれたら…でもペンのはちょっとやりすぎだけど。あんな激しいブラコンはお断りだな。だけどもう少し優しくてもいんじゃねぇの?マジで。

結果よろしく、とそれだけ返信するとパタンと携帯を閉じる。エイプリルフールか…なんて思いながら。
キッドが嘘にそう簡単に引っ掛かるとは思えないけど、何でもいいから昨日の仕返しをしてやりたくて。大嫌いか、と口の中で呟くとリビングへと向かった。



キッドは詰まらなそうな昼番組を真剣な表情でじっと見ていた。最近この昼ドラにハマっているらしい。よくありがちな男女関係の泥沼を描いたもので、正直言って何が面白いのか分からない。
起きてきたときとは違って、キッドはテレビから目を離さない。それだけで剥れてしまう俺も餓鬼っぽいけど、隠しもせず不機嫌丸出しにしながらキッドの隣に座った。隣って言っても端と端だけど。間には一人座れそうなぐらいのスペースが空いている。
いつもなら隙間もないくらいくっつくのに、そんな今日の俺に対して何とも思わないんだろうか。まだ機嫌が悪いのか、とか思ってもそのぐらい?きっとどうでもいいんだろうな、と思って自分の考えに益々拗ねる。馬鹿みたい。
だけどその考えに比例するようにキッドは一貫して何も言わずにテレビを見てる。元からそういう性格だってのも分かるけど、もう少しぐらい気にかけてくれたっていいじゃないか。

「…嫌い」
「あ?」
「嫌いだ、お前なんか」

そんな苛々に堪えきれずに出た言葉は部屋で何度も呟いた大嫌い。だけどソファの上で三角座りしてそんなこと呟いて、まるで自分が構ってちゃんみたいですぐに恥ずかしくなった。
でも少し期待もしてしまう。これでキッドは俺に構ってくれるんじゃないかって。別に呆れたようにしてくれたっていいんだ。キス一つで許せる準備は出来ていた、のに。

「ふーん。俺も嫌い」

全く目もくれずに言われた言葉に思わず体が固まる。え、と声に出したはずの声が出なくて、言われた言葉を噛み締めるように数度瞬きをした。だけどすぐに脳がじんわりとその意味を理解して、恐る恐る見つめたキッドの瞳はテレビに向けられたまま。
会話はこれでおしまいとでも言うように、弁解の言葉も謝罪の言葉もなく、宣告されてプツリと切れた。それがまるで今の言葉は本当の気持ちだということを表しているみたいで、頭の中でその三文字がぐるぐる回る。エイプリルフールだから「嫌い」って言ったつもりなのに、返ってきたのは嘘か本当かも分からない「嫌い」で。
本当はキッドって俺のこと嫌いだったのかも、と思考が一気にマイナスに傾いていく。だっていつも求めるのは俺だ。弟だし、しょうがないから無理に恋人ごっこに付き合ってくれてるのかもしれないと、そう考えたら何だか急に悲しくなってきていてもたってもいられず立ち上がる。そしたらキッドに手首を掴まれて、無理矢理ソファに引き戻された。

「何自分から言ったくせに泣いてんだよ」
「っ、離せ…!」
「分かった分かった。俺が悪かったから泣くなって、な?」

今日はエイプリルフールなんだろ?とキッドに苦笑されて、目尻の涙を舐めとられる。お前の嘘に便乗しただけ、と呟かれてやっぱりバレてたんだと思ったのも束の間、目の前の胸板を拳で叩いてやった。

「っ、変な嘘吐くな馬鹿!」
「先に言い出したのはお前だろ」
「キッドが言うとホントに聞こえるんだよ!」
「何だよ、愛が足りないってか?」

笑いながらそう言ったキッドの手が頬に触れて、触れた先からじんわりと熱くなる。足りなくて飢え死にしそうだ、とそれでも唇を尖らせて呟けば、生意気だなとそっとに額にキスを落とされた。
それにまるでさっきの不機嫌さが嘘みたいに笑みが溢れる。堪えてたけど擽ったくて嬉しくてもう駄目だ。俺って単純。
だけど何度も繰り返される頬や瞼に落とされるマシュマロみたいなキスにだんだんと物足りなくなってきて、そうじゃなくてこっちに、と唇に触れれば柔らかなキスが降りそそぐ。でもそれもほんの一瞬だけで、すぐに啄むようなものへと変わり、噛み付くような荒々しいキスになった。

「んぅ、ぁっ…」
「はっ…で?伝わったか?」
「ん、まだ足りないって…」

キスだけじゃ、そう呟くとゆっくりとソファに押し倒されてキッドの首に腕を回した。
だけどここはリビングな訳で、ドアを開ければすぐにでも異常なほどくっつきあってる俺たちが視界に飛び込んでくるだろう。
いきなりこんな姿見せ付けられたら親が心臓発作でも起こして死んでしまうかもしれない。

「帰ってきたらどうすんだよ」
「そんなノリノリでよく言えるな」
「だってお預け食らってたし?」
「そりゃ悪かった。…あんたらの息子たちはこんなに仲いいですよってことでいんじゃね?」
「ふはっ、それ新しいな」
「だろ」

戯れのようにキスをして、服の隙間から入ってきた手の擽ったさとキッドの馬鹿らしい発言両方共に笑みが零れる。実際そんな笑ってられるような問題でもないけど。こういう世間のしがらみはただの足枷にしかならなくて面倒臭かった。
やっぱり二人暮らししたい、と呟けば、後もう少しだけだからと宥めるような声色が降りそそぐ。

「早く大人になりたい」
「シてることは十分大人だ」
「…変態」
「変態で結構。ヤられて善がるお前はもっと変態ってことだ」
「んなことねぇし!」
「あー悪ぃ、間違えた。淫乱の間違いだ」
「誰が淫乱…!」
「いいからもう黙っとけよ」

お前が変なこと言うからだろ!と思ったが、すぐに唇を塞がれて舌と舌が絡み合う。それに夢中になって必死になって、しょうがないから言いたい言葉は全部注がれた唾液と一緒に飲み込んだ。
文句はあとで言うことにして、今は故意的なお預けのご褒美をたっぷり搾り取ってやることだけ考えよう。

Next


[ novel top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -