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 友達以上、恋人以上…?

「シャチー、迎えに来てやったんだから早くしろ」
「あ、待って、ペン!いま行く!」

ざわざわと騒がしい教室の扉が予告もなく開いたのは、授業が終わってからすぐのことだった。
扉の向こうで大声を上げる人物にクラスメートの視線が一気に注目する。まだ新学期が始まって一週間しか経ってないのに、あれってペンギン先輩じゃない?!なんて騒ぐ黄色い声に感心混じりの苦笑を洩らした。女の子の情報網ってすごいなぁ、なんて思いながら弁当を掴んでハートマークが飛び交う視線を独り占めしたペンの元へ駆け寄った。

「ほら行くぞ。ローたちももう待ってる」
「うん!にしても皆に会うの久しぶりだー」
「そっか?入学祝いちゃんとしてやったろ?」
「一週間は久しぶりなの!」

もうあれから一週間だよ?と唇を尖らせれば、まだ一週間な、とペンに笑われる。
確かに受験のときに比べれば一週間なんて全然だし、まだまだ我慢出来る範囲。だけど晴れて入学してしまえばいつでも好きなときに会えるから、一週間なんて長いもんだ。
ユースタスが最初が肝心、なんて言うからキラーやペンギンが同意しちゃったりして、昼は皆で集まろうってローさんと(無理矢理)した約束が一週間分延びてしまった。まあその分友達はたくさん出来たけど。

「学校にはもう慣れたか?」
「まあまあ。たまに教室分かんなくて迷うけど、楽しいよ」
「勉強は?」
「…まあまあ」
「へぇ、赤点取らないうちに早めに対策取っとくんだな」
「うぅ…そこまで分かってるなら勉強教えてよ…」

がくりと項垂れると苦笑したペンに頭を撫でられる。なら分からないところがどこか分かるようにしとけよ?なんてからかわれて。
それに反論しようとすれば、キィと古い音を立ててドアの開く音がする。すぐさま視界に飛び込んできた緑色のフェンスとそれに寄り掛かって座る見慣れた姿を見てどうでもよくなった。

「ローさあああん!お久しぶりです!」
「久しぶりってお前まだ一週間だぞ?つかうるせぇ」
「おいその熱烈な挨拶はトラファルガーだけか?」
「誰があんたにするか!ペンとキラーにはまだしてやってもいいけど!」
「うわムカつく」
「まだって何だまだって、一言余計だ。つか俺はそんな挨拶いらない」
「違いない」

イチゴミルクと銘打ったピンク色のパック片手にローさんは相変わらずやる気の無さそうな顔でいた。その横では自分の弁当片手に眉根を寄せたユースタス。そしてこの騒がしさに呆れたようにしつつも緩く笑みを浮かべるキラーにペンギン。
その全てがいつも通りで、俺は自然と緩む頬を止められない。懐かしいこの風景とまた出会えて嬉しい。
なんて考えてたら、一人でニヤニヤしてんなよ気持ち悪ぃ、とローさんに怪訝そうな顔をされた。相変わらず酷い。



懐かしさに浸っていたのは最初だけで、あとはいつも通りフリーダムだ。
持ってきた弁当を食べながら、それでも最初は五人で思い思いのことを話した。その感じが薄れてフリーダムさが滲み出てきたのは途中から。

何故か隣同士に座っていたはずのローさんとユースタスなのに、いつの間にかローさんがユースタスの足の間に移動している。何だかまるで後ろから抱き締められているかのような恰好だ。
でもあの二人に限ってそんな鳥肌が立つようなことはあり得ないし、ローさんなら聞かれればきっと人間椅子だと堂々と答えてくれるだろう。
たとえローさんがべたりとユースタスにくっついていても卵焼きをあーんされていても、ただユースタスをいいように使っているだけなんだと考えて二度見したくなるような目の前の光景に対して冷静に努めた。それにペンもキラーも全然気にしてなかったから。

「あ、ユースタス屋、ここにご飯粒ついてる」
「どこに?」
「ん…、取れたぞ」
「ありがとな」

だけどこれは流石にちょっと違う気がするんだ。

だってね、普通友達の口元についてるご飯粒を舐め取ったりする?せいぜい指で取ってあげるぐらいなんじゃないの?
だけど別段ユースタスは気にした風もなく、ローさんの頭を撫でている。それにローさんは嬉しそうな顔をしてユースタスに擦り寄る。それがまるで当たり前であるかのように。
え、なにこの二人。ホントどうしちゃったの。

何故か俺だけ一人でおろおろと慌てて、キラーと談笑するペンギンに控え目にその光景を指差せば、いつものことだから気にするな、と見る間もなくバッサリ斬られた。それにキラーも肩を竦めるだけ。
ますます混乱した。ローさんもユースタスも、昔はあんな感じじゃなかったはず。(と言っても俺がローさんとユースタスが仲がいいと知ったのは中学のときだ。実際はそれより前から一緒にいたらしい。)
なのにいつものことだから、なんて。
高校生になってから劇的に変わったりしたのかな?じゃないとあの態度はおかしいよな、なん考えながら見ていいのか少し憚られる問題の二人をそれでもちらちら視線を送りながら見つめた。

「あ、そういや悪ぃけど今日一緒に帰れねェんだ」
「えー、なんでだよ」
「数学のプリント終わらせてなくて居残りくらった」
「なんで終わらせてねんだよアホ」
「しょうがねェだろ、分かんなかったんだから」
「じゃあ俺が教えてやる。三十分で終わらせるぞ」「え、いいのか?」
「一人で帰んのつまんなくてヤダし」
「何だお前可愛いな」
「だろ?」
「一人で帰るの寂しいからだったらもっと可愛かったけど」
「うるせぇ」

ふふ、と笑うローさんと満更でもなさそうな顔したユースタス。
え?何なのこれ。やっぱりおかしいよね。幻覚?幻覚なのか?

当たり前のようにユースタスにくっつくローさんも、その二人の通常とは異なるやりとりを全く気にしないペンたちにも訳分かんなくなってとりあえず幻覚かどうか目を擦った。ついでに夢かどうか頬も抓る。もちろん痛い。
そんな一人百面相の俺を見かねてか、どうかしたかとペンに不思議そうな顔で聞かれた。どうしたもこうしたも、本当にあの二人何かおかしい…と口を開こうとして、視界に飛び込んできた光景に思わず目を見開いた。

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