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 万事無事解決?

「トラファルガー、大丈夫か?」
「…っ、ユースタス屋!」

いつの間にかバジル屋は戻ってきていたらしく、ぐいっと別のユースタス屋に体を抱き寄せられて救出された。ユースタス屋からユースタス屋に助けられるって頭がぐちゃぐちゃになりそうな図だが今度こそは本物のユースタス屋であってほしい。そう思ってその広い背に腕を回して抱きつくとぎゅっと抱きしめ返された。

「嫌なことされてないか?怖かったよな?」
「…ぅ、うん…?」

ちゅっと目尻にキスされて、心配そうに顔を覗き込まれる。その優しすぎる声色に首を傾げつつ曖昧に頷くとふわりとしたような笑みを返されて、よかった、とこつんと額を合わせられた。え、ちょっとまって何このユースタス屋…。

「危ねェからもう勝手に一人で水場に近寄ったりするなよ?お前危なっかしいんだからさ…でもトラファルガーが無事でよかった。あんま心配かけさすなよな」
「……っ!!!バジル屋っ!!」
「何だ?言っておくが俺は何もしてないぞ。ただお前が落としたのはその」
「俺が落としたユースタス屋はこんな鳥肌が立つほど甘ったるくない!俺が落としたのは呆れたり面倒臭そうな顔ばっかしてるけど本当は優しくて、たまに意地悪にもなるけど俺の嫌がることは絶対にしないユースタス屋だ!」

バジル屋の言葉を遮ってまで言い切ったそれは思い返すとめちゃくちゃ恥ずかしいものだったが、そのときの俺は必死すぎて本当のユースタス屋を返してもらえるならなりふり構っていられなかった。だって駄目だもんこんなユースタス屋たち。俺ついていける自信ないもん。

「お前は…正直者だな」

はぁはぁと肩で荒く息をする俺を見詰めながらどこかしみじみと感心したように言葉を吐き出したバジル屋は、勝手に一人で納得すると再度湖の中へと消えていった。その姿を目で追いながら、これが三度目の正直になりますように、とじっと湖を見つめて。



「あーもう…お前のせいで散々な目に遭っ…」
「ユースタス屋!」
「ぅ、おっ!?…トラファルガー?」

濡れた髪に眉根を寄せるとじとっとこちらを睨みつけてきたユースタス屋に俺は堪らず抱きついた。これぞ本当の三度目の正直、だ。濡れるから離れろ、というユースタス屋の言葉も無視してぎゅっと強く抱きつくと、何だよお前どうかしたのか?と訝しげな顔をされた。

「ユースタス屋…よかった…」
「…あ、あぁ」

戸惑うように頭を撫でられて、それでさえも嬉しい。やっぱりいつものユースタス屋が一番だ、と思いながら今度こそバジル屋に礼を言った。これでまた別のユースタス屋が出てきたら、そろそろあの斧でお前の湖を赤く染め上げるところだった。

「いや…礼はいらない。正直な人間には褒美が与えられるべきだ」

そう言うとバジル屋は少し微笑を洩らしながら湖の中へと吸い込まれるように消えていった。それをじっと見送りながらふと思う、褒美という言葉。そして一人で湖の中へと戻っていったバジル屋。残ったのは俺と、ユースタス屋三人。


えっ、三人?
なにそれこわい。


「…何で俺が二人もいんの?」
「褒美かな」
「褒美だな」
「ああ、トラファルガーが正直だったからっていうあれか」
「え、ちょっ、まてユースタス屋!なにお前ナチュラルに馴染んでんだ!」
「全員俺なんだから馴染むも何もないだろ」

駄目だこいつ適応能力高ぇ…!話にならない!
いきなり三人のユースタス屋に囲まれて慌てる俺なんかお構いなしでユースタス屋たちはマイペースに話を続ける。何だこれ、一人慌てる俺が逆に馬鹿みたいだ、とその状況に一瞬ふと思ったが俺のリアクションはどう考えたって正しい。

「にしても俺が三人って不便すぎるだろ…」
「呼び方とか?」
「まあそれは適当に決めればいんじゃね?」
「生活は別に今まで通りの気もするけどな」
「どっちかっていうと問題はトラファルガーだろ」
「一人だしなぁ…」
「三人同時にとか無理だろ、多分」
「やっぱ…回すか」
「それしかねェな。交代で」
「ちょっとまてぇえ!!!」

俺が慌ててる間にも話はどんどん恐ろしい方へと進んでいって、よしじゃあ毎晩交代で、とどのユースタス屋が言ったか知らないが耳に入ってきたその情報に首が千切れるんじゃないかと思うほど必死になって横に振った。そんなの俺が壊れるに決まってんだろ!

「何だよ嫌なのか」
「当たり前だろ!馬鹿かお前ら!」
「だってしょうがねェだろうが、こっちは三人だぞ」
「一人になれよ!分裂できんなら合体もできんだろ!」
「焦りすぎて言ってることがめちゃくちゃだぞトラファルガー」

大体好きでこうなった訳じゃねェよ、とユースタス屋(のうちの誰か)はそう言うと諦めろというようにポンポンと軽く頭を撫でた。諦めろって諦められるわけないだろっ、お前らの分裂と合体に俺は明日の安否がかかってるんだからな!

「…あ、いいこと思いついた」
「!合体か?!」
「いや無理だから」

ポンッと古典的にも握り拳で掌を叩くと何か良案を思いついたらしいユースタス屋(俺を見てにっこり笑ったから多分一番優しいユースタス屋)に藁にも縋るような視線を向ける。もう何でもいい、何でも…っ!とか思っていたら、不意にユースタス屋の腕が伸びてきて。

「え゛、」

バチャン!



「…うわー大胆なことすんなぁ俺」
「トラファルガーを三人にした方が効率いいだろ」
「だからって落とすか普通…」


「またお呼びか…。今度は何だ」
「ああ、実は……」



そのあとぐだぐだと俺らの探してるトラファルガーは〜、と言ったユースタス屋に笑えるくらいトントン拍子に俺は三人に分裂した。
そうして結局俺は一人ひとりユースタス屋に持ち帰られて平穏無事に解決した訳なんだけど。
何だか物凄くツンツンしてる俺を優しいユースタス屋(でも俺あいつ絶対腹黒だと思う)が、どことなく甲斐甲斐しくて尻尾があればブンブン振ってそうないかにもユースタス屋好き好き!な俺を意地悪なユースタス屋が引き取っていって、その様子を見てとてつもなく微妙な気持ちになった。特に何だろう…あの後者の俺たちの想像が簡単につきすぎる目眩く性生活みたいなものは…何か俺が可哀想に思えてきた…。
はぁ、とまるでここ一年分の疲労を背負ったようなため息を吐くとユースタス屋がポンポンと頭を撫でてくれた。

「俺、やっぱりお前が一番好きだ…」
「俺は…素直なお前の方がよかったかな…」
「!?」
「あー、でもやっぱりあのツンツンしまくってるお前も可愛かったよな…」
「!!?…ユースタス屋…ぅっ」
「え?ちょ、まてまて、泣くなって、な?冗談だって、お前が一番好きだからさ」

慌てたように宥められてユースタス屋を下からじとりと睨み付けると目尻にちゅっと口付けられる。ばーか、と呟くとぎゅっと強く抱き締められた。



「浮気するならあの二人のどっちかとしてやる…」
「それはやめろってお前洒落になんないから」




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