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 ××な恋人

事に及んだのはいきなりだったけど、いつもと違ってその全ての手つきが優しかった。
まず額にキスされて、唇にも。ただ触れるだけのそれを何度も繰り返され、服の隙間から這う手が確かめるように肌を撫でる。
鼻や頬にキスされたあとはもう一度唇に。啄むように触れたあとに深くなっていく唇に、初めて「普通」を感じて歓喜した。少し甘ったるくて優しすぎる気もしたがこの際気にしない。

ちゅ、っと唇が離されたあとは耳にキスを落とされて、首筋を舌が這う。擽ったさに身を竦めればいきなり歯を立てられて突如与えられた鋭い痛みに眉根を寄せた。

「っあ!噛むな…っ」
「ん、分かった」

声を上げれば噛みついた首筋を労るように舐めたユースタス屋が呟く。
従順すぎるその答えに若干訝しく思いながらも、求めていた甘い愛撫に流されてすぐにどうでもよくなった。

「っ、んっ、ぁ…」

するりと服を捲られると、首筋を舐めていた舌が離れ、乳首にそっと口付けられる。そのまま熱い舌が絡み付き、舌の上で転がすように弄られて腰が震えた。
もう片方も指先で弄ばれて、やればできるじゃんと思いつつ、それでもやらなかったユースタス屋を思い出して少し腹が立った。

「んっぁ…あっ!」

優しく舌で転がされる緩い刺激の中、いきなり強く吸われて思わず高い声が上がる。いきなり与えられた強い刺激に体は正直で、もっとしてほしいというように胸を反ってしまう。それにいつもなら詰るようなユースタス屋の言葉も今日は優しいキスに変わっていた。
痛かったか?なんて、分かりきっているくせに聞いてくる口元には笑みが称えられていて、その表情だけが「普通」のセックスの中でいつも通りだった。
それに首を振ったはずなのに、知っているはずなのに、ユースタス屋は知らないふりをして最後にぎゅっと強く抓むと弄るのをやめてしまう。
おかしくなったのはここから。優しく、普通にされてるんじゃなくて、ただ焦らされているんだと気付くのにそう長くはかからなかった。

「っ、ぁ、ユースタス、屋…っ」
「ん?」

そして最悪なことに俺は焦らされるのがこの上なく嫌いだった。それを知っているはずなのに訴えかけるような甘ったるい声は無視されて、唇は乳首を離れてどんどん下へと降りていく。
腹から腿、脹ら脛と舐められて、しまいに足の指先を含まれたときには堪らなくなって思わず静止の声を上げた。

「ばっ、そ、なとこ…舐め、っ」
「いいから俺の好きにさせろ」

「普通」にするんだろ?とにやりと笑ったユースタス屋に親指を舐め上げられ、一本一本丁寧にしゃぶられる。この何が普通だよ!とは思ったが、何とも言えないような、擽ったいような感覚に何も言えず、ぎゅっとシーツを握り締めた。
でもそういった焦らしに弱い俺は結局すぐに泣き言を上げてしまって、ふるふると首を振りながら瞑っていた目を開けるとユースタス屋を見つめた。

「っ、ふ…ゃ、ユースタス屋ぁ…それ、ゃだ…」
「そう言ってるわりにこっちはどろどろだけどな」
「…っ、ぁ、」

決定的な刺激はまだ与えられていないはずなのに、何故かすっかり勃ち上がってしまった俺のものを見て、くすりと笑ったユースタス屋に頬が赤くなる。
俺の体は焦らされるといつもこうだった。勝手に強い刺激を思い出す体のせいでろくに触られもしないのに反応してしまう。だから焦らされるのが嫌いで、そんな俺をユースタス屋は淫乱だと詰った。

だけど今日のユースタス屋はそれをしない。しない代わりにわざとらしく、限りなく近い位置、でも決して触ることなく、内腿に口付ける。その柔らかい部分を吸われて、じわりと目尻に涙が浮かんだ。こんな焦らされ方はしたことがないから分からない。全然普通じゃねぇじゃねぇかと悪態を吐けるのは頭の片隅だけで、口を開けば代わりに甘ったるい吐息が洩れた。

「すげェ溢れてる…やらし」
「ひ、あ…ふ、も、ゃあ…っ」

ふぅ、と息を吹き掛けられてそれだけでびくりと腰が揺れる。こぷこぷと液が伝っていくのが自分でも分かって、なのにそれをユースタス屋に笑いながら伝えられると余計に恥ずかしくなって首を振った。
別段アブノーマルなことをされているという訳でもないけれど堪えきれない。しまいにはそのじれったい行為に泣きながら腰を揺すっていた。

「ぁ、も、触ってぇ…」

ぼやける視界でユースタス屋を見つめ上げる。そしたらにやりと笑ったユースタス屋に、こんなふうに?と言われて、つつつと上から下になぞられた。それにまた腰が跳ねてこぷりと液が溢れていく。
だけど望んでいたのはそんな緩い刺激じゃないから、体は足りないと騒ぎ出す。

「ゃ、ちがっ…もっと強く…っ」
「それだけ?」
「ぁ、ぅ…っ、握って、もっといっぱい、動かして…」

自分が出来る最大限の範囲でユースタス屋を誘う。結局はいつもとなんら変わらない状況だった。

「じゃあ自分でやって見本みしてみろよ」

いや、いつもより悪い気がする。
「っ、ゃだ、な、で…」
「今のじゃ分かんなかった。ほら、早く」

分からない、なんてありえない言葉を白々しく言ってにやにや笑うユースタス屋を持てる限りの力で睨みつけた。でも効果はもちろんなくて、急かすユースタス屋に唇を噛み締める。
恥を忍んで言った言葉も流されて、あまつさえユースタス屋の目の前でオナニーしろときたもんだ。俺がもっと元気ならきっと一、二発殴るぐらいじゃ済まさない。
だけど今は状況が違う。何より俺の体はぐずぐずに溶けていて、ろくな抵抗もできないほど。ユースタス屋を睨みつけながらも快楽を欲している自分がいるのも事実。
にやつくユースタス屋から視線をそらしてぎゅっと目を瞑ると、そっと自分のモノに指を這わした。

「んっ、んぁ…っ、あっ」

くちゅ、と触れた瞬間響いた粘着質な音に、自分がどれだけ堪えられなかったか示されたような気がして頬が熱くなる。だけどそれを気にしていられないほど、自分の手で与える快楽にあっという間に落ちてしまった。
目を瞑っていてもユースタス屋の視線は痛いほど感じていた。でも今はそれよりも目前の快楽を追うのに夢中で、焦らされたから余計に気持ちよく感じる。羞恥に浮かされた頬は熱く、恥ずかしいことをしていると知っていながら手が止まらない。

「はっ、ぁ!あっ、ぁっ、や、いっ…!」

最初はそれでも控え目だったはず。それがどんどん激しくなっていって、強い刺激に体は呆気なく絶頂を迎えようとしていた。それに逆らうことなく抜く手つきを激しくすれば、不意にユースタス屋の手によって遮られて苦しくて目を見開く。

「ふっ、ぁ…ゃだぁ…な、で、いきた…っ」
「俺がイかせてやるよ」

絶頂を遮られてのが苦しくて、涙目でユースタス屋を見つめればにやつく瞳がこちらを見つめる。ちゅ、と額にキスされて、お前が淫乱なおかげでよく分かった、と囁かれた言葉に恥ずかしくて首を振った。
だけど期待してしまっている自分もいて。自分でするよりもユースタス屋にされたほうが気持ちいいのは知っているから。

俺より少し大きなユースタス屋の手に包まれて、くちゅ、ぐちゅ、と響く音もそのままに抜き上げられる。最初はゆっくりと、だけどだんだん激しくなる手つきにどんどん頭の中が真っ白になっていって、ぎゅっとシーツを握り締めて喘いでいればユースタス屋に唇を塞がれて深いキスをされる。その全てが気持ちよくて我慢なんてできなかった。

「んっ、んぅ!ふっ、ぁ…やっ、いく、いっちゃ…――っ!」

息が出来ない苦しさと与えられる気持ちよさに涙が滲む。頭の中がぐちゃぐちゃになって、唇を離したユースタス屋に限界を訴えればぐりぐりと先端を強く親指で擦られてびくんと体が大きく揺れて。
そのまま声もなく、ユースタス屋の掌でイった。

「あっ…は、はぁ…」
「気持ちよかったろ」

余韻に浸って、ぼんやりと虚空を見つめながら荒く息をする俺を見つめてユースタス屋はくつりと笑う。ぱたりと力なくベッドの上に落ちた手を掴まれて、白濁に塗れたそれをユースタス屋の赤い舌が舐め取っていく。
お前焦らされるの好きだもんな、なんて呟かれて、指を舐めるユースタス屋に少し冷めた頭が先ほどの乱れっぷりを思い出し、気恥ずかしくなって直視できない。頭の中で浮かんだ反論も口の中でもごもごと消えてしまって、そうこうしてるうちに期待して勝手に蠢く穴に指を入れられてびくりと背が撓った。

「んぁっ!?ゃ、ちょ、まって…ひっぁ!」
「待たねェよ」
「あっ、ひぅ、だって、イったばっか、ぁあ!」

慌てて首を振るも呆気なく入ってきた指は簡単に増やされてしまい、二本の指で前立腺を突くように刺激されると体はすぐに快楽を拾い出す。ただ達したばかりの体にはやはり辛く、突かれる度に気持ちいいのと苦しいのが混じって涙が浮かぶ。
それをユースタス屋は舐め取ると、ぐちゅりと増えた三本の指で柔らかなそこを押し潰すように刺激してきたものだから、俺は堪えられなくなって泣きながら逃げようと腰を揺すった。そしたらぎゅっと腰を押さえつけられて。

「んぁあっ!ゃ、あ、っ、ひ!」
「逃げんなって。めちゃめちゃにされるのも好きだろ?」
「ぁん、ゃあ、すき、じゃな…ひぁあ!」
「嘘つくなよ。もう勃ってんぞ?」

ほら、っと指で刺激されながら自身を弄られて首を振った。先端を引っ掻くように爪を立てられて何も考えられなくなっていく。

「あぁっ、ゃ、また、いっちゃ、っ、あ、〜〜っ!」

イきたくなかったのに、ユースタス屋の激しい手の動きは射精を促していて、それに逆らえるはずもなく、呆気なく二度目の絶頂を迎えてしまう。
こんなふうに連続でイかされることはあまりなくて、何が何だかよく分からない。ぐちゅ、と指を引き抜くだけのそれにも感じてしまって、小さく声を上げればユースタス屋に笑われた。

「焦らした後激しくすると本当すぐイくよな、お前」

にやっと笑ったユースタス屋に知りたくもない情報を与えられて思わず頬が赤くなる。違うと否定するにはあまりにも不利な立場でぎゅっとシーツを握り締めた。
それに、今はそれよりもこの体の疼きをどうにかする方が先だった。二回もイったのに、指が抜け出た体はぽっかりと穴があいてしまったようで奥の奥が疼きだす。こういうときは嫌でも俺の体はすっかり開発済みなのだと認識せざるを得ない。

でも、それでもいいから。
もぞり、と脚を動かすとシーツに擦れて皺になる。

「…ゆー、すたす、屋」

唇から洩れる息は熱くて我ながら恥ずかしい。甘ったるい声で促すように名前を呼べばくつりと笑ったユースタス屋に、お見通しだというように似つかないほど優しいキスをされた。




「んっ、あ!はっ、ぁあ、ゃ、そこっ…!」
「っ、ここ、だろ?」
「ひっぁ、あ!ゃあ、すごぃっ、〜〜っ、あぁ!」

重なった肌から乾いた音がして、上下に揺すられるたびに空気を孕んだ音が弾けて消えていく。
ユースタス屋の上に乗って好き勝手に動く俺の腰を支えて、俺が腰を下ろすたびにユースタス屋が突き上げてくれるから気持ちよくておかしくなりそうだった。

それでも俺が好き勝手動いているうちはまだ楽だ。そのうちユースタス屋ががっしりと腰を掴んで固定すると前立腺を狙って突き上げる。
そうするともう駄目で、ガクガク震える腕を叱咤して崩れ落ちそうになる体を支えるのが精一杯。

「あっぁあ!やっ、はげし…っ、ひっ、だめ、っ、ふあぁ!」
「気持ちいいくせに。何が駄目なんだよ」
「ひぁ、だって、こわれちゃ、っあ、ぁあ!〜〜っ!」

激しく突き上げられて、尚且つ自身を抜かれたらもう駄目。同時に与えられる刺激に堪えられるはずもなく、びくびくと体を揺らすとまたも呆気なくイってしまった。

「はっ、…はぁ、…」
「何勝手にイってんだよ」
「ん、ひゃあ!あ、だめぇ!うごかな、ぁあ!」
「っ、お前が勝手にイくからだろ」
「ふ、ぁあ、ゃ、ごめっ、ひゃ、ん!」

ユースタス屋の腹にぶちまけたあと、がくりと力が抜けて倒れこんでしまう。息も荒くユースタス屋の胸に縋りついていれば挿れたまま起き上がられてびくりと体が震えた。
でも次にはまた律動を開始されて、ユースタス屋の上でだらしなく喘ぐ。

気持ちよくて真っ白になっていく頭の中で、ユースタス屋に抱きつきながら、「普通」のセックスじゃ満足できなくなったらどうしようとぼんやり思った。




「お前のせいで俺まで変態になったらどうしてくれんだよ!」
「変態にヤられて善がってる時点で変態だろ」

ベッドの中で喚く俺にユースタス屋は呆れたような視線を向けると宥めるように頭を撫でた。それを振り払うとユースタス屋を睨みつける。
珍しく、昨日は記憶が飛ばなかった。だから一から十までしっかり全て覚えている。全く嬉しくない話だ。

「『普通』のセックス…したかったのに」
「だからヤってやったろうが」
「あれはなんか違う!」
「何かって何だよ」
「なんかって…なんでもだよ!」
「いや、訳分かんねェから」

自分でも言っていることがめちゃくちゃだってのは分かってる。でも何がどう変だとかだからこうしろああしろと思うたびに昨日の自分の乱れっぷりを思い出してそれどころじゃなくなる。
自分で考えろ馬鹿、とそれだけ言うと横になってユースタス屋に背を向けた。

「まあでも、あれだよな」
「…」
「お前が変態のド淫乱になっても俺が責任取れば問題ないよな」
「はぁ?!ふざけんな!」
「あ、淫乱にはもうなってるか」
「〜〜っ!もうお前黙れ!死ね!」

にやにや笑ったユースタス屋に枕を投げつけると赤くなった頬を隠すようにして布団の中に潜り込む。
もう二度と流されないようにしよう、変態行為をされそうになったら思いっきり抵抗しよう。そう固く心に誓いながら。

その次の日にこの間撮ったビデオを見ながらヤられて自分の意志薄弱さに泣いた。




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