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 惚れた腫れたは聞き飽きた

部活も終わり、さて帰るかと立ち上がれば、今日は一緒に帰ろう、とローの方から珍しく誘ってきた。疑問を感じつつも特に用はないので二つ返事で了承する。

暫くは他愛ない会話を続けていた。というかローが一方的に喋ってそれに俺が相槌を打っているだけのような。やっぱり何かおかしい。

「なあ、」
「ん?」
「今日ユースタスは休みか何かか?」

誘われたときから感じていた疑問を口にすれば、みるみるうちに顔が不機嫌そうなものへと変わっていく。ああ地雷だったか、と思った時にはもう遅くて。それがさ!と怒気を込めて言い放つローに、なるべく面倒ごとには巻き込まれたくなかったんだがな、と独り言ちた。
仕方なく、喧嘩でもしたのか?と聞けばこれまた不機嫌そうに頷く。何だか長くなりそうだ。

「俺の方が好きだっつってんのに、ユースタス屋が『俺の方が好きだ』とか言うんだよ!」
「……それは喧嘩、でいいんだよな?」

何だかただ惚気られているように感じるのは俺の気のせいなのだろうか。当たり前だろ!と言ったローに思わずため息が出そうになった。ものすごく今ここから逃げ出したい。

「…愛されてていいじゃないか」
「俺の方がもっと愛してんの!」

ユースタス屋は何もわかっちゃいない、と舌打ち混じりに呟くローを見て、きっと向こうもそう思ってるぞ、とそれでも心の中で呟くだけにしておいた。




「キッド、迎えに行かないくていいのか?」
「あいつなら行ったって無駄だ。どうせ先に帰ってるだろ。」

不機嫌そうに鼻を鳴らしたキッドに珍しいな、と首を傾げる。いつも部活終わりには必ずトラファルガーのことを迎えに行くくせに。喧嘩でもしたのか?と軽く聞けば眉間に皺が寄る。それがよ、と言葉を続けたキッドにやはり聞かなければよかったと後悔した。

「あいつが俺のこと好きだって言うから俺の方が好きだって言ったんだよ。そしたら『いや、俺の方が好きだ!』とか言い出してよ。だから、」
「ちょっと待ってくれ。…喧嘩したんだよな?」
「だから今内容を話してんじゃねェか」

キッドは眉を寄せるとこちらを見やる。そしてすぐにまた続きを話し始めた。これってただの惚気なんじゃないのか、と思ったが本人たちに言わせてみれば喧嘩らしい。しかもいつもベタベタと人目を憚らず一緒にいて、ちょっとやそっとじゃ離れないぐらいなのだから結構深刻な喧嘩なのだろう。そしてその内容がどっちがより相手を好きかというものなのだからとんだバカップルに違いない。こう言ったらあれだが何だ、耳が腐る。

「――…ってんのにあいつ聞かねェし勝手にキレて口も利かねェんだよ」
「…それは大変だな」

咄嗟に適当に相槌を打てば、だろ?と言ってキッドは面倒くさそうにため息を吐いた。危ない、途中から何も聞いてなかった。

「まあ、いいじゃないか…喧嘩するほど仲がいいって言うし」
「あいつと口も聞けなきゃ触れもしない喧嘩なんざ御免だ」

苛々と舌打ち混じりに呟くキッドに早く仲直りしてほしいと切実に思った。俺にこの役割は荷が重すぎる…。




次の日、ローはとんでもなく機嫌がよかった。常に鼻歌でも歌い出しそうな様子で、ほっとけばどこかに飛んでいきそうだった。
…まあ原因は一つしか思い当たらない。仲直りしたのか?と聞けばローはそれはそれは嬉しそうに頷いた。

「ユースタス屋ってば狡いんだ」
「狡い?」
「そう、狡い。『俺もお前がすげェ好きなんだから言わずにはいられねェんだよ』とか言ってくんの」

そんなこと言われたら機嫌も直るって、とローはにこにこして言った。それにもう乾いた笑みしか出てこない。何だろう。これは神が俺に与えた試練かなんかだろうか。だとしたら大分きつい。
それでも不機嫌なローよりはマシか、と呆れたように笑みを浮かべた。





「あ、ユースタス屋」
「早く帰るぞ」
「今行く!」

バタバタと慌ただしく駆けていくトラファルガーの後ろ姿とキッドの無駄に満足そうな横顔を見やる。どうやら仲直りしたらしい。昨日喧嘩して今日仲直りするとは一体どんな手段を使ったのだろうか。それともあの二人の喧嘩に対する態度は小学生並みなのだろうか。でも小学生だってきっとそんなすぐに仲直り何か出来ないだろう。この調子でいけばきっとバカップルは世界を救うに違いない。
何はともあれ耳が腐り落ちる前に元通りになってくれてよかった。人を巻き込むのも程々にしてほしい。




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