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 どんな君も愛しい

『それではただいまより、超新星高等部二学年によるフォークダンスを始めます』


軽快な音楽がスピーカーから緩やかに流れ出し、それにローはギリリと唇を噛み締めた。
―ジュエリー屋め…あとで覚えてろ!!

あのあと結局グラウンドに行くまで後ろからきっちり逃げ出さないように観察されていたローは、そのまま係員であるホーキンスに受け渡されてしまって。もちろん人数調整から有無を言わさず女子の列に並ばされてしまい、そんなローにキッドは素知らぬ顔で男子の列へと並んでしまう。ユースタス屋の裏切り者と思いつつ、ローは遠目にてボニーを睨むがそれすらもウィンクで返されるという始末。
何だよ俺だって人体模型の配置についてアドバイスしてやっただろうが、と思うもボニーとって大切なのはローがクラスに少なからず貢献したかどうかではなく、自分の食い歩き時間がきちんと確保されたかどうかな訳で。もちろんそれをローが知るはずもなく、隣の女子がローくんローくん騒ぎ立てるのですらも今はこのイライラを煽るものでしかない。何でこの俺が男と!と叫び出したい気持ちをぐっと堪えて、目の前に差し出された男の手を仕方なく取った。


くるくると相手は面白いぐらいに変わっていくが、その全てがローにとっては同性なのでちっとも楽しくはない。まともに踊ったことがないから分からないというのも一理あるが、とにかくローに真面目に踊る気はなかった。クラスの男子にはからかわれ、反論する気も起きなやしない。ペンギンに至っては始終にやにや笑いながら時折わざとらしく手を握ってくる始末。あとでキラー屋に言いつけてやると女子と楽しそうに踊るペンギンにローは胸の内で毒づいた。

早く終わらねぇかなあとほぼ惰性で続けるローの視界に、不意にあの赤が映る。あ、ユースタス屋、と思った瞬間には自然その姿を目で追ってしまっている自分に気づいてローは苦笑した。どうせなら相手がユースタス屋ならよかったのにな、と思いつつキッドを見つめるローの視線は必然的にキッドと踊る女子へと向かう。見る顔見る顔、嬉しそうにキッドと踊っていて、ローはその姿に思わず眉根を寄せた。
キッドもキッドで別段気にする風もなく、真面目とは程遠いがやはりそれなりには踊っている訳で。そんなキッドに見惚れる女子もいればどさくさに紛れてその手をぎゅっと掴む女子もいる。ローはその全てが気に食わなくて、餓鬼っぽいなぁとは思いつつも、ユースタス屋のばか、真面目に踊るな、とふいっと視線をそらしてしまうのであった。



かったりぃなあと思いながら踊るキッドはローの心情など露知らず、いつまでこれは続くのだろうかとだるそうに欠伸を噛み殺す。キッドに至っては最早全てがどうでもいいので一々女子の行動や言動に構うことさえしない。これで一体何度目か、どさくさに紛れて強く握られる手にいい加減にしろよと思う。それでも特に気にすることなく穏やかに踊っていけば、ふと目に止まったローの姿に思わずキッドは眉根を寄せた。


―トラファルガーの奴何してんだ…?ベタベタ触らせやがって!

じっとローを睨み付けるも、当にキッドを見つめるのを諦めたローが気づくはずもなく、ローはただただ面倒臭そうに踊っていた。だがキッドの位置からはちょうどローの背中しか見えなくて…それが悪かったのだ。
ローと踊っていたのは同じクラスの男子で、ちょうどキッドが見たその時にはからかいついでにわざとらしくローの腰に腕を回しているところだった。
もちろんもう反抗する気も起きないローは眉根を寄せて止めろと口先で言うだけでその手を剥がそうとはしない。それが悪かったのだ。キッドの位置からはローの表情は窺い知れないので必然的にローが好き勝手させてるように見えてしまう。結局ことあるごとに腕を回され手を握られるローに自ら短気と自負するキッドはイライラと、今にも浮き出た青筋がブチリと切れてしまいそうな思いにかられたのは言うまでもなく。もちろんそんなキッドの様子にもまた、ローは気がつかないのであったのだけれど。


そろそろ曲も終盤にさしかかり、やっと終わるのか、とローは息を吐く。ちょうどその時だ。俯き様に手を取ればその手をぎゅっと握られて。だからいい加減止めろよとそう口にしようとして顔を上げ、ローは驚いたように目を見開いた。

「…ユースタス屋」

そこにいたのは紛れもなくキッドで、そして何故かその顔は不機嫌そうだった。もちろんその理由をローが知る訳もなく、ちゃんと踊れよと言われてしまえば女子と踊っていたキッドを思い出してローも頬を脹らませる。

「んなこと言ったって躍り方知らねぇもん」
「さっきまで散々踊ってじゃねェか」
「ユースタス屋と違って真面目に踊るとか出来ないし。悪かったな」
「は?誰が真面目に踊るかよあんなの」
「踊ってた!女の子に手まで握らせて!」
「そりゃあっちが勝手に握ってきただけだ!」

てめェだっていろんな男に触らせてただろうが!と叫び出したい気持ちをぐっと堪えて、キッドは自分を睨み上げる瞳にため息を吐いた。喧嘩するためにわざわざ躍りに来たわけではないとローも重々承知していて、それが逆に変な空気を生んでしまい、ローはふいっと視線をそらした。
せっかくユースタス屋と踊れてんのになぁと思いながら黙ってしまったキッドに自然ローも口を閉ざしてしまう。そんなローにキッドは頭を掻くとぎゅっとローの手を強く握り直した。

「ユースタス屋、手、」
「別にいいだろ」

いつの間にか握られていた手はキッドによって指を強く絡めるものへと変えられていて、ローは頬が独りでに熱くなるのを感じた。いわゆる恋人繋ぎというやつで、平然とやってのけるキッドを恥ずかしく思いながらもそれでもそんなキッドが嬉しくてローは小さく笑う。そのローの表情に反則だ、とキッドは口の中で呟くと、ローの赤味を受けて少し色付いた頬を隠すことなくぎゅっとその手を握った。

二人の間に殆ど会話はなかったが、パートナーが変わる瞬間ローがきゅっと手を握り返してきて、それにキッドは反則だと再度思う。離れたくないとローの顔にはありありと書いてあって、それにキッドは分かりやすいなと小さく笑みを洩らした。そんなローを宥めるようにまたあとでなと耳元で囁いてやれば珍しく素直に照れるローが可愛い。名残惜しげに手を離されて、早く終われと思ったのは言うまでもない。



「ローさん?顔真っ赤ですよ?」
「はっ、面白いなシャチ。俺の照れはレアだしお前は俺より身長低いんだから位置変われ。お前が女役しろ」
「えっ、ちょっ、何なんですかその変わりよう…ってか、ぇえ?!マジっすか?!」
「大マジだ。あとは任せた」
「ちょ…ローさんんん!」

ぼーっと赤い顔してキッドを見つめていたローはその次にいたシャチに顔を覗きこまれて一瞬で顔色を変える。無茶苦茶言うローに無駄だと知っていながら首を振るシャチの行為はやはり無駄で。有無を言わさず立ち位置を摩り替えられ、無情にも女子の列に組み込まれたシャチにローはにこやかに手を降った。そうして曲が終わるまでの短い間、始終キッドにまとわりつく女子を睨み付けては先手を打ち、先程までの可愛らしい態度とはうって変わったローにキッドはもう慣れたけどな、とどこか深いため息を吐いた。





「楽しかったな文化祭!」
「おーそりゃよかったな」

あのフォークダンスが終わったあと、二人になりたいと少し照れたように言ったローの可愛いお強請りにすぐさま屋上へと向かった。二人きりで緩やかに時を過ごしながら、楽しそうな声色で振り返ったローがにこりと笑う。キッドは大してそうも思っていなかったのだが、ローが楽しかったならいいかなと思えてしまう自分の思考回路に苦笑した。
振り返ったその頬をするすると撫でてやれば気持ちよさそうに目を細められてぎゅっと抱き着かれて。その体を抱き返して耳に軽くキスを落とすと擽ったそうに身を捩られた。

「つうかお前さ、ベタベタ触らせてんなよ」
「なにが?」
「ダンスん時。腰に手回されたりしてただろ」

言う気はなかったのに、自分に擦り寄ってくるローが可愛くてついつい独占欲が出てしまう。こんなことを言ってしまえばローにからかわれるに決まっているのに。
案の定、なんだよユースタス屋やきもちか?とにやにや笑いながらローに言われてキッドは苛立ち紛れにその頬を軽く抓る。当たり前だ、バーカ、と言うとローは意外そうにきょとんとこちらを見つめた。

「お前は俺のもんだろうが」

言ってしまったあとになって自分が物凄く恥ずかしい言葉を口にしていることに気付いたが今更撤回する気も起きやしない。またこいつを調子に乗らせるだけだろうか、と思えば意外にもローの顔はどんどん赤く染まっていって終いには耳まで赤くなってしまう。その姿にキッドは軽く目を見開くと、ふっと笑みを浮かべた。
そうだろ?と耳元に唇を寄せて低く囁いてやればローの肩がびくりと震える。調子に乗るなと逆に怒られたがそんな赤い顔で睨まれたって微塵も恐くない。ちゅ、と軽く唇にキスを落とすと珍しく素直にその体を強く抱き締めた。






oop様から頂いた素敵絵を僭越ながら小説にさせて頂きました!><
私が書かせてくださいとお願いしたところいいよ!と頂いたので^///^本当楽しかったです!有難うございます!





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