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 変態画家とモデルの災難

こちらをお先にどうぞ)


最近のペンギンは元気がない。
ペンギンとはなかなか気が合うのでよく一緒に座ってデッサンをしたりあれだこれだと他愛のない話をしたりする。キッドといるときとはまた違った雰囲気が好きだった。なのに最近のペンギンといったらとにかく元気がない。というよりはぐったりと疲れてみえる。そうしてたまにキッドを見ては恨めしそうな顔をしながらため息を吐いていた。一度ぐらいなら然程気にもしないが、その様子を何度も見せつけられれば原因はキッドにあるのだろうかと思えてくる。
だから何度目かのため息のあと、ペンギンにどうかしたのか?とつい尋ねたのだ。何が?と沈んだ声で聞かれたので、キッドに向かってため息ばかり吐いてるから、それに元気もない、と疑問に思っていたことをそのまま言えば、バッと音が出そうなほど勢いよく顔を上げてこちらを向いたペンギンに、聞いてくれよ!とラリアットをかまされた。もとい抱きつかれた訳だがあまりに勢いがよすぎて少しよろける。分かった聞くから落ち着けと引き剥がして眉根を寄せて俯くペンギンの頭を宥めるように一撫でした。



聞けばこうだった。トラファルガーの機嫌が最近悪い、と。話が見えなくて、それがどうかしたのか?と首を傾げる。俺の見るトラファルガーは大抵がここでキッドのモデルとしているときだけで、その時も、というかキッドといるときはいつでも不機嫌そうだから大して問題でもないように思える。だがその不機嫌さがペンギンにとっては大問題らしく、聞けばそれとは種類が違うのだとキッとキッドを睨み付けた。間接的に、とはいえやはり原因はキッドにあるらしい。はぁ、とため息を吐いたペンギンはぽつりぽつりと話始めた。



ユースタスってモテるよな?女に。と疲れたように言ったペンギンに軽く頷く。確かにキッドはモテる。変人だが顔はいいので上っ面だけ見た女がたくさん寄ってくるし、キッドもそれに乗っかって来る者拒まず去る者追わずのスタンスでやってきていたのだ。トラファルガーを劇的に好きになるまでは。
今では目を見張る変わりようで、やってくる女を鼻であしらう始末。俺には今のところキッドのそういう面では何ら問題は見られないように思う。だけどそう言うことじゃないんだとペンギンは言う。そうじゃなくてあいつがモテること自体が原因なんだと。それに冗談半分で、何だトラファルガーは嫉妬でもしてるのか、と聞けばペンギンは重々しく頷いた。それに目を見開いたのは言うまでもない。



何でもよくトラファルガーのもとに女がこう言いに来るらしい。
「ローくんってキッドくんと仲いいよねー、ねぇねぇ紹介してもらってもいいかな?」「今度キッドくんにモデルで描いてもらいたいんだけど…一緒につれてってもらってもいい?」「キッドくんにさー、あたしのこと伝えておいてもらってもいいかなぁ?またモデルしたいって」……。
一人二人ならどうってことないとあしらっていたトラファルガーだがそれが一人二人じゃ済まなくてとうとうキレたらしい。どうなってんだあいつ、とペンギンに愚痴るトラファルガーはこの上なく不機嫌で、そのお陰か最近はあまり人も寄ってこないらしいが。それにペンギンが、まあ最近そういう奴も来ないじゃないかと宥めようとすれば、そんなん自分で言いに行ってるから来ねぇんだよと鼻で笑う。何でもトラファルガーに一度頼みに来た女が後々自分からキッドに言い寄っている場面に偶然出会してしまったらしい。ローは素直じゃないから自分でユースタスに言うことも出来ないし、その溜まったイライラを俺に発散させようとするし、と泣きつくペンギンの話を聞きながら相槌を打つ。なるほど面倒くさいカップルだ。
キッドは恋愛面においてあまり他人を気遣わないというか、付き合ってるのに相手が悲しいとか楽しいとかにあまり興味がなさそうな態度をよくとる。特に放置プレイが好きで、上手く付き合えても自分からは全くといっていいほど何も行動を起こさないのでほとんど自然消滅で終わる。でもトラファルガーに対しては今までと比べ物にならないほど並々ならぬ愛を注いでいるのと思っていたが、どうやら相変わらず気遣うことはしていないらしい。というよりはトラファルガーのことになると自分だけで手一杯で気が回らないと言った方がいいのかもしれないと俺は勝手に思った。確かに恋人同士のはずではあるのに端からみればまだまだキッドの片思いにみえるほど上辺では偏りがある二人なのだ。まあ今ペンギンの発言で偏りがあるのは愛情表現だけだと分かったが。
たまにならまだしも毎日毎日愚痴を聞いて宥めるのも大変なんだと言ったペンギンの頭をよしよし撫でながら暢気なもんだとキッドを見つめた。そうして俯くペンギンの肩を叩くと俺がそれをキッドに伝えてきてやるから安心しろと言った。友人が困っているなら助けてやらないとな、と一人で納得しながら、え、ちょっとそれは…、と何故か焦ったような声を出すペンギンに大丈夫だとそれだけ言うとちらりと時計を見る。まだトラファルガーが来るまでに時間があるな、と思いながら未だ引き留めるペンギンを引き剥がしてキッドのもとへ向かった。



最初キッドはあまり興味を示さなかった。描いてるときはいつもそうだがかなり集中しているのであまり取り合ってくれない。だがトラファルガーという単語を出しただけでぴくりとその手が動き、これこれこうでトラファルガーがやきもちを妬いているらしいととりあえず簡潔に伝えてやればくるりと振り返ったキッドに強く肩を掴まれる。詳しく聞かせろ、とただそれだけ言ったキッドの目はこの上なくきらきらしていて、ペンギンから聞いたありのままを伝えてやればどんどんだらしなく頬が緩んでいった。たった一つ恋人のやきもちを持ち出しただけで色男の顔面はここまで崩壊するものだろうかと思いながら、また放置プレイか?と念のため探りを入れた。いや、そんなことねェけど、でも、そっかトラファルガーが…と呟くキッドは完全にどこか違う世界へ旅立っていた。とりあえず恋人ならちゃんと気持ちを汲み取ってやらなきゃだと思う、と俺が言うとキッドは大きく首を振った。これで今度からはキッドも気をつけるだろう。
ペンギン、とりあえず大丈夫だぞ、と結果報告をしようとしてアトリエに踏み込んできた人物にふと顔をそちらに向ける。そこにいたのは相変わらず不機嫌そうな顔をしたトラファルガーで、いつもならキッドにエスコートされて席につくはずが今日は違った。ガタッといきなり立ち上がったキッドがトラファルガーに急に抱きついたのだ。今は俺たち四人しかいないからまだいいが、何と大胆な、と思いながら好きだトラファルガーお前が一番だ云々と聞いているこちらが恥ずかしくなるような愛の羅列を耳元で囁くキッドにペンギンはこそこそと俺の後ろに隠れた。トラファルガーはいきなりのキッドの行動になんなんだお前離せ!と頬をほんのりと赤く染めて怒鳴っている。だがキッドは離せと言われれば言われるほど強くトラファルガーを抱き締めているように見えた。あれか、俺が途中でトラファルガーは素直じゃないらしいし、と言ったのが悪かったのか。まあ確かに照れ隠しだとは思うがこちらに被害が及ぶ前に何とかしてくれ。とか思っていたら何を思ったかキッドが嫉妬してたんだってなとトチ狂ったことをトラファルガーに向けて言ってしまった。お前それは駄目だろう…!と思ったが時既に遅しというやつで頬をほんのり赤く染めたトラファルガーはどこえやら、ギロリと人一人射殺すような視線でこちらを振り向いたトラファルガーに後ろでペンギンが身震いしたような気がした。これ結構やばいんじゃないかとか思っていたら不意にトラファルガーが唇を歪めてイビツな笑みを作ったことには俺の背筋もぞくりと震えた。これならまだ睨まれていた方がマシだ。何なんだあの笑みは俺呪いでもかけられたんじゃないのか、と後ろを振り替えるとペンギンの腕を掴んで慌てて部屋を出た。後で覚えてやがれ、とすれ違い様にトラファルガーが言ったような気がして、あの二人にはもう二度と首を突っ込まないでおこうとか思いながら、ローに殺される!キラーの馬鹿!と怒鳴るペンギンに謝り倒す。



それにしてもキッドはよくあの凍てつくような状況下でもなおトラファルガーに愛を囁けたもんだなぁと思うとその空気の読めなさに感心さえ生まれてくる。でも何だかんだ言ったって、出際に見たトラファルガーの耳はやっぱり赤かったなと思うと本当に素直じゃないらしい。トラファルガーも大変だろうがキッドもキッドで大変だろうなと思ったあとに、あの恐ろしいぐらいのゴーイングマイウェイ加減を思い出してやっぱり大変なのはトラファルガーか、と思い直した。






ちなみにキッドは素晴らしきAKY





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