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 君の瞳に恋してる!

クラス中の視線を独り占めしていたそいつは、まさしく俺が昨日キラーに力説していた当の本人だった。やっぱりあいつでいいのか、と確認するように返すキラーに軽く頷く。

…でもそれにしたってあれはねェよ。

「あいつ本当にあの席なのか?」
「なんじゃないか?まあ俺が来たときにはもう座っていたからあれだが…」
「嘘だろ…だってあれ、あの、トラファルガーの席…だろ?」
「まあ、な」

気づけば俺らも周りと同じような会話をしていたが、しない方が無理だという話。
しかも会話中の、あの、を強調してしまったことに悪気がないと言ったら嘘になる。ただ純粋に信じられないような衝撃がそこにはあった。

トラファルガー・ローは校内一の秀才で有名だ。だが同時に、とんでもない根暗としても有名だった。そこは同じクラスだから余計に分かる。
いつも一人でいるし、必要なときにしかクラスの奴とでさえ話さない。分厚い眼鏡は冗談なく瓶底みたいで、頭ばっかりいいもんだから、何だか非常に浮いていた。そもそも周りの空気が暗い。好き好んで近寄る奴は誰もいなかった。
ちなみに俺がトラファルガーと会話したことは、ない。

「あ、おいキッド…」

ガタッ、と椅子から立ち上がると静かな教室にはよく響いた。周りの奴の囁きがとまり、背中に突き刺さる視線、何事かと辺りが騒ぐ。声をかけるキラーも無視すると、窓際の一番後ろの席へと脚を運んだ。

「…?…あ、おはよ」
「…はよ」

トラファルガーの前の席の奴から椅子を拝借すると座る。何事かと本から顔を上げたこいつと視線がかち合い、ああ昨日の、というようなニュアンスが読み取れる表情で挨拶をされて思わず律儀に返してしまう。
いや、そんなことはどうでもよくて、だな。

「お前…眼鏡は?」
「なんか壊れたみたいでまだ修理だしてないから、今日はコンタクト」
「…へー」

眼鏡とったら超イケメンって…おいおいそりゃどこの少女漫画だよ。
なんて思いながら返事をすれば、何を勘違いしたのか、別にお前のせいじゃないから、とフォローされた。どうやら昨日ぶつかったことを言っているらしい。
何だ、話してみれば別に普通の奴じゃないか。

「お前さ、眼鏡ない方がいいよ」
「でも眼鏡の方が楽だ」
「コンタクトのが似合ってるって」

昨日今日の奴に言われるのはあれかもしれないが、もちろん本音だ。多分周りの奴らも動揺しつつもそう思っていると思う。
何の気なしに言った言葉、だが、不意に黙り込んでしまったトラファルガーに眉根を寄せる。何か駄目だったか?と覗き込んだ顔は真っ赤で、照れてんのか、と思ったのはその三秒後。
何こいつ可愛いんだけど。




「トラファルガー英語のプリント見して!」
「また?」
「今日あたるんだよ。昼休み奢るからさ」
「しょうがねぇな」

朝一番に向かったのはトラファルガーの席。読んでいた本から顔を上げて、声色は渋々だけど嫌がる素振りは見当たらない。それに有難く思いながら、出されたプリントを受け取って写す作業に入った。

あの日からトラファルガーは変わった。
まず俺らが一緒にいるようになった。俺とキラーとトラファルガーの組み合わせがこのクラスでは普通になった。
それから誰とでも話すようになった。…というよりはよく話しかけられるようになって、それにこいつが答えるようになったってだけだけど。
それでもトラファルガーは極度の人見知りらしく(あの性格は人見知りからきていたらしい)、それに関しては多大なる進歩だとも言える。

もちろん変わったのはこいつだけじゃなくて、こいつの周りにある環境も。
そして俺でさえも。

「あ、キラー屋。それ一口ちょうだい」
「ん?ほら」

ありがと、と笑顔で受け取るトラファルガー。それに苛々したりするあたり俺も結構きてると思う。
無防備に笑顔振り撒いてんな!…なんて。

俺らと一緒に過ごすようになって大分雰囲気の変わったトラファルガーに取り込もうとする奴はたくさんいた。よく笑うようになったし、何よりその端正な顔をあの分厚い眼鏡で隠さなくなったからだ。
もちろんそれは俺がコンタクトの方がいいなんて寝惚けたことを言ったからだけども。本当、考えなしのあんときの自分を恨むな。

「…トラファルガー」
「終わった?」
「そうじゃなくて…」
「分かんないとこでもあったのか?」
「いや、違う」
「じゃあなんだよ」
「あのさ…頼むか、」
「ローさん!おはよー!」
「ああ、シャチ。おはよ」

怪訝そうに眉根を寄せたトラファルガーに対する俺の願いは、突如やってきたシャチによって阻止された。
こいつは今年から新しく入ってきたトラファルガーの幼馴染み、らしい。ったく、学年違うくせに毎回毎回トラファルガーに会いにきやがって!休み毎に来る奴がいるか。

「それで?どうかしたのか?」

人の気持ちも知らず、シャチと戯れるトラファルガーがふわりとした笑みもそのままに続きを促す。それに先程の続きを言えるわけもなくて、何でもない、と言葉尻を濁すようにして視線をそらした。

その顔で笑うな、なんて誰が言えるだろうか。
でもそうでもしないと、皆お前に惚れちまうんだよ!







「キッド、もたもたしてると誰かにとられるぞ」
「…うるせェ」

眼鏡がない方がいい、なんて言うんじゃなかった。




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