Log | ナノ

 愛してるはまだ聞けない

ベッドの上で仰向けに寝転がるトラファルガーの、同じ男とは思えないような細い腰を掴むと強引に引き寄せる。明確な目的意識をもった手つきで緩やかに撫で上げると情欲を映した瞳がこちらを捕らえた。
決定打に欠けるゆるゆるとした手つきのまま愛撫をほどこせば時間だけが足早に通り過ぎる。瞳に映る情欲は未だ消えないがそれに答えることはしなかった。繰り返される行為のなかで決して穏やかとはいえない空気が不穏を身に纏う。打ち破ったのはトラファルガーの不機嫌そうな声だった。

「焦らしてるのか」
「…さぁな」

とは言ったものの緩慢な動きでもってしたのは別に意図がある訳でもなく、ましてや意味など見当たらない。ただただ緩やかな流れにそって事を進めると、トラファルガーの目がすっと細められた。それを見てゆっくりと手を下におろすと、どこからか入り込んだ淫靡な空気が鼻をつく。何だか噎せかえるほど甘い匂いがした。

不意にトラファルガーの手が頬に触れる。酷く冷たく感じるのは瞳と笑みだけではないようだ。相変わらず人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、唐突に「愛のないセックスは嫌いだ」なんてぬかしやがった。
その一言に俺は眉間に皺を寄せると動きを止める。つくづく読めないヤツだとは思っていたがこんな風にして予想の見事斜め上をいってくれるとは思わなかった。高確率で嫌味としか受け取れないその言葉にすっかり萎えてしまい、身体を退けるとその張本人に背を向けてベッドに座る。後ろからくすくすと聞こえる笑い声に文句の一つでも飛ばそうかとも思ったが、何だか馬鹿らしくなったので止めた。

まさかこんなことで中断されるとは思いもしなかったが最早ヤる気もなくなってしまい、もう帰ろうかと腰を浮かす。不意に後ろで起き上がったトラファルガーの体温を背中に感じて、そのまま首に腕が回されると何だかその気でさえも失せてしまった。自分でも都合がいいと思うが実際そうなんだからどうでもいい。耳にかかる吐息の熱さだけが現実を目の当たりにした。

「なんだ、萎えちまったのかユースタス屋。」
「てめェのせいで見事にな。」
「女が嫌いなのか?」
「じゃあ聞くがてめェは女なのか?」

んな女々しいこと言われたって気持ちワリぃしてめェが言うだけ説得力も何も皆無だろうが、と一気に捲し立てればこいつはまた脈絡のない笑みを浮かべて笑う。そして俺はそれを見て何とも言えない微妙な気持ちになるのだからどうしようもない。喉元まででかかった溜息は吐き出されることなく体内に消えていった。

少しの沈黙をおいて回された手がそっと首筋をなぞると肩を掴まれて思わず後ろを振り向く。案の定近づいてくる唇を手で覆うと「愛のないキスは嫌いだ」と呟いた。ささやかな仕返しも兼ねての行為だがはたしてこれに意味はあるのだろうか。言葉にすると存外馬鹿らしく、歯の浮くような台詞とはまた違った陳腐な単語の羅列に何故か娼婦を思い出した。
間抜け面を浮かべたトラファルガーはどこか可笑しく、意味はなくともこのくらいの効果なら少なからず期待出来るらしいことが分かった。なるほど、こいつが先程笑った理由も分からないわけでもない。手を退けるとトラファルガーはそのままなだれ込むように俺の胸元に顔を埋めた。

フフ、と少し下から小さく笑う声が聞こえ、続いて「ユースタス屋は面白いな」と呟く声が聞こえた。何だか無性に苛々したので「気が変わったからヤらせろ」と乱暴に言い放つともう一度ベッドに押し倒す。
ハナから期待などしちゃいないがここまであからさまなのも中々面白い。痛いのが好きだと言っていたことを思い出して首筋に噛み付くとそのまま皮膚を食い千切っやりたい感覚に捕らわれた。

「そのまま殺してくれてもいいぞ、食い千切って」
「馬鹿かてめェは」

ついた跡を舐め上げて顔をあげれば唇が触れるか触れないかの距離でトラファルガーが囁く。音が空気を伝って揺れると微かな振動が唇へと響いた。
こんなやつのどこがいいのか自分でも分からないまま唇を重ねると細い腕が首に回される。急かすように背中に爪を立てられて唇を離すと、トラファルガーは早くと囁いて口許を歪めた。この淫乱が、と吐き捨てると存分に嫌味を込めてもう一度、呆れるほど丁寧にキスをした。






素敵企画「Who am I?」にて投稿した作品
とっても楽しい企画でした^^







[ novel top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -