▼ エゴイズム恋愛論
ユースタス屋の顳に両手でそっと触れると、とくとくと脈打っているのが分かる。動いているのは生きている証拠。それが何とも言えない感情を引き起こす。
これは一体何なんだろうか。生きていると確認する度に俺は。
「…何してんだ」
「生存確認」
眉根を寄せたユースタス屋に至って普通に答える。掌に伝わる心地のいいリズム。刻んでいるのはユースタス屋。ああ、生きている。
瞳を見つめ上げると腕を掴まれて抱き寄せられる。すっぽりとユースタス屋の腕の中に収まると頭を胸に押し付けられた。
「こっちのが分かりやすいだろ」
「なにが?」
「生存確認」
皮膚を通して伝わる鼓動に確かに、と俺は小さく頷いた。何も鼓動だけじゃない。ユースタス屋の体温も伝わる。喋ればその振動も。呼吸の音も。
何もかもが全て、ユースタス屋は生きていると示していた。それに俺の心はまたざわりと蠢く。
「なあ、」「あ?」
「死んで」
「…何でだよ」
「死んでほしいから。あと、ユースタス屋が好き」
最後のは関係ねェだろ、と言ったユースタス屋に首を振った。これが一番重要なのに、分かってないな。
頬に触れると両手で顔を包み込む。じっとまた目を見つめた。俺が映ってる。笑えば瞳の中も笑う。
「お前が好きだから全部欲しい。でも生きている限りお前はお前のものだ」
だから死んで。
それだけ言って口を閉じると黙って見つめる。ユースタス屋も俺を見つめる。
ユースタス屋の目には今俺だけが映ってる。そう考えると堪らなかった。
ユースタス屋は目を細める。唇が笑った。耳元で囁かれる。
いいぜ。
くちゅ、と音がした。ユースタス屋の舌が耳を舐める。びくりと肩が跳ねる。甘ったるい空気。
「その代わりに、だ」
そのまま下りてきた舌が首筋を舐める。
俺はてめェにキスすることも抱くことも、ましてや話しかけることも出来やしねェ。触れることも抱き締めることも、だ。
それでいいのか?とユースタス屋が尋ねるから俺は首を横に振るしかなかった。
「そんなの嫌だ」
「なら諦めろ」
それも嫌だと言えば我儘だなと返される。俺はいつだってそうだ。欲しいな、ユースタス屋が。俺のものにならないお前なんてやっぱり死ねばいいんだ。
ユースタス屋の唇が俺の唇に触れる。舌が入り込んできて唾液が交じり合う。
この舌を噛み千切ったらユースタス屋は死ぬかな。だが緩く舌を噛んだだけで止めた。
こういう時に不公平だと俺は思う。だって俺はもうとっくにユースタス屋のものなのに。