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 超特急で連れ出して

ユースタス屋の腕の中で抱き締められながら噛み締める幸せと相反する感情は最後まで俺の胸を締め付ける気らしい。すやすや眠るユースタス屋の月明かりに照らされた蒼白い顔を見つめて、そっと頬に触れた。そのまま唇にもっていきかけた手を止めると赤い髪を撫でる。これが最後だと思うと腕の一本ぐらいは頂戴しておきたい気もするけれど止めておこう。ユースタス屋の腕なんて身近に置いといたら本物に焦がれすぎて発狂するかもしれない、なんて。強ち間違っていないかもしれない自分の考えに笑いながらそっと髪を掻き分けて額にキスをした。ああ、もう行かなきゃだな。
俺は何も言わないけれどユースタス屋はきっと気付いてるだろう。今日で俺たちはこの島を去る。金輪際もう二度と会わないと言えば嘘になるが次に会うときは紛れもなく、敵だ。言えることはもう二度とこうして触れ合えることはないということ。殺し合いの代わりに愛し合ってきた俺たちが異常だったのだ。そうすることが海賊の常で、当たり前のことなのに。



「…行くのか」
「なんだ、起きてたのか」

そうっと、ユースタス屋を起こさないように起き上がったつもりだがユースタス屋は目を覚ましてしまったらしい。こちらを射抜く瞳に小さくと頷くと、そうか、と静かに返される。
早く、この空間から出なければ。思いとは裏腹に、出て行きたくないというように重くだるい体を叱咤して、落ちていた帽子を拾って目深に被るとユースタス屋に背を向けた。

「…ロー」

不意に名前を呼ばれて体が固まる。その一瞬の間にユースタス屋の腕がにゅっと伸びてきて後ろから抱き締められてしまった。強く強く離さないというように力のこもる腕。項垂れたユースタス屋の首筋にあたる吐息がひどく熱い。

「ユースタス屋、離せ」
「………」
「消されたいのか。離せって言ってるだろ」

ぐっと唇を噛み締めると、冷たく、突き放すように鋭く。そう意識して言い放った言葉は、何故かか細く震えていた。それをユースタス屋がどう捉えたかは知らないが、益々抱き締める腕には力がこもり、俺は一度諦めたはずの感情に苛まされる。


「ユースタ、」
「愛してる」


一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまった。

好きだとか愛してるだとか。誰が決めたわけでもないのに、それは俺たちの中で禁句だった。言ってはいけない言葉。破滅の言葉。だって、それを言ってしまえば益々離れられなくなってしまうから。
だから今まで意識的に避けてきたじゃないか。ユースタス屋だってそれは分かりきっているはず。なのに今更、何だというのだ。

「行くな」
「…ユースタス屋」
「離さない」
「…っ、」
「俺は、」
「ユースタス屋!」

堰を切ったように溢れ出すユースタス屋の言葉は甘い悪魔の囁きのように俺の体を蝕んでいく。その両腕に体を預けて、何も考えることなく身を委ねることが出来たらどんなにか幸せなことだろう。
でもそれは許されないことなのだ。俺たちが海を焦がれ続ける者である限り、背中を預けられる仲間がいる限り、海賊である限り。


「そんなこと言って、俺を困らせるな」


本当は。
本当は、離れたくない。行きたくない。あわよくばユースタス屋とこのままずっと一緒に。
好きだ。愛してる。口の中で何度も呟いて、ぐっと言葉を噛み殺す。泣きそうだった。素直に言えるユースタス屋が羨ましい。俺だって、お前と、


「逃げちまおうか、」


目を、見開く。思わず後ろを振り返るとユースタス屋は泣きたくなるくらい優しい顔で笑った。

許されないことなのだ。好きになってしまった俺たちの自業自得の結果なのだ。それでもユースタス屋は好きになって何が悪いと言う。一緒にいて何が悪いと言う。逃げ出して、何が悪いと言う。

好きなのだ、


優しく頬に触れるユースタス屋の手にそっと手を重ねるとユースタス屋は笑った。つられて笑った俺は泣きそうに酷い顔をしていたと思う。


「ユースタス屋、」


ぎゅっと抱きつくと力強く抱きしめ返される。言葉は要らない。今まで築いてきたこの二億も仲間も夢でさえも。それが俺の答え。

愛してる。
それが俺の答え。







さあ、お前しかいない世界へ。






一度は書いてみたい出港の日。ラフテル再会が多い中でまさかの愛の逃避行バージョン。




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