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 こっくりさん、おいでおいで

(霊感有×無de第二弾)

『付き合ってほしい』


そう言ったのは俺。


『…いいよ』


そう言ったのはあいつ。


『でも、その代わりに』


『俺が幽霊殺すの、手伝って』



何故俺はあそこで頷いた。




「ユースタス屋、こっくりさんしよう」
「………」
「すんげぇ嫌そうな顔だな」
「…帰る」
「無理」
「離せよ」
「嫌だ。一人でやったってつまんねぇだろ?」

そう言ってトラファルガーは俺の腕を掴むとずるずると引き摺るようにしてリビングへと引っ張っていく。
つうかお前、その為だけにわざわざ俺を呼んだのか?今何時だと思ってやがる。一時だぞ、一時。もちろん夜中の。

はぁ、と溜息を吐いた。
…この場合は律儀に来てしまう俺の性格を恨むべきか?

「そういう半端な降霊術ほどあいつらはよってきやすいんだよ」
「なら好都合じゃねぇか」
「……この時間帯はわざとか?」
「もちろん」

幾らか上機嫌のように見えなくもないトラファルガーに座らせられて、テーブルを見ればご丁寧にも紙と十円玉がすでに用意してあった。紙にはその当時一世を風靡したときと何ら変わらないお馴染みの文句が並んでいる。

「じゃあほら、やろうぜ」

いつもは死んだような眼差しが生き生きと俺を見つめている。本当にこういうときだけトラファルガーは何故かやる気を出す。仕方なく十円玉に指を置くと早く終われと心中で独り言ちた。
何だかんだ言って、結局トラファルガーに甘い自分に心底呆れたのは別の話だ。

「じゃあやるぞ。…こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいましたら『はい』へ進んでください」

棒読みで決まり文句をトラファルガーが唱えると、一拍置いて十円玉が動き出す。
それにこいつは顔を上げるとじっとこちらを見つめてきた。

「ユースタス屋動かした?」
「な訳ねェだろ」
「だよな。今のは俺が動かした」
「お前…帰るぞ」

眉間に皺を寄せて言えばトラファルガーは渋々十円玉を元の位置に戻す。そうしてもう一度唱えだした。

「こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいましたら『はい』へ進んでください」

すすすっ、と十円玉が紙の上を滑るように動く。

「ユースタス屋」
「動かしてねェからな」
「奇遇だな。俺もだ」

『はい』の方へ進んでいく十円玉を見ながらトラファルガーは呟いた。

「きてる?」
「…分かんねェ。隠れてんのかも」

とりあえずぐるりと部屋を見渡すが目立った異変は何もない。
じゃあなんか聞こうぜ、とトラファルガーが言ったので、好きにしろ、と呟いた。

「そうだな。…こっくりさんこっくりさん。ユースタス屋の好きな人は誰ですか」
「てめェ何聞いてんだ」
「いいだろ別に」

分かりきったことだし、と言うとトラファルガーは憎たらしく笑った。
そうこうしてるうちに十円玉は動いていく。

そして何故か動いた先が「ね」

「…ね?」
「浮気とはいい度胸だなユースタス屋」
「してねェよ!」

否定する間も十円玉は動いていく。

「『こ』…ね、こ。…猫ってことか?」
「まあ…確かに嫌いではないな」

そう言うとトラファルガーは面白くなさそうな顔をした。これじゃあ好きな人じゃなくて動物だ、使えねぇ奴、とぼそりと呟いた声もばっちり聞こえた。やっぱりいつか呪い殺されるぞこいつ。

バグってんのか?と十円玉を見つめるトラファルガーに、でも強ち嘘でもないかもしれないと思った。
だってこいつ猫みたいだし。言わねェけど。

「まあいいか。…きた?」
「…きてる。姿は視えねェけど」
「じゃあ、でてきてもらおうぜ」

そう言ってにやりと笑ったトラファルガーには嫌な予感しか感じない。

「こっくりさんこっくりさん。もしもいらしてるのなら、どうか姿を現してください。よければ『はい』の方へ」
「おい…」
「隠れてねぇで出て来いよって話だ」

悪戯に呟いたトラファルガーに眉根を寄せると溜息を吐いた。
手元に視線を向ければすすすっと動く十円玉。
――……『はい』

バンッ!!とおもいっきり壁を叩いたような音が背後から聞こえて、思わず後ろを振り返る。
もちろん目立った異変は特にない。

「おい、今の音……トラファルガー?」

いつもならやっぱり目をキラキラさせてすぐに飛びついてくるはずのトラファルガーが何も言わないことに訝しんで視線を投げかければ小さく震える肩に目が止まる。
俯いていて表情はよく分からない。ただ震える肩の向こう側、背後にあるものにだけ目がいった。

「…ユースタス屋…」
「もういい、止めんぞ」
「嫌だ…寒い」
「トラファルガー」
「嫌だ…帰りたくない……俺の後ろに誰かいる」

ぶつぶつと呟くトラファルガーに眉根を寄せるが指先が重くなったようにして十円玉から離れない。それはこいつもそうらしく、片手で自分を抱き締めるように肩を抱くと小刻みに震えながら息を吐いた。

「帰りたくない…帰りたくない…帰りたくない……振り向きたいのに振り向けねぇ」

か細く呟くトラファルガーの声は一心に「寒い、嫌だ、帰りたくない」
その合間に聞こえるはっきりした声はきっとこいつが自分の意思で発したものだろう。
てか何振り向こうとしてんだお前。相変わらずの好奇心の強さはこんな状況下でも変わりないらしい。

ぎょろりとした目玉がこちらを射抜き、口元に笑みを浮かべてリズムをとるように頭を揺らす。色白の小さい餓鬼だ。それがトラファルガーの肩に腕を回しながら一心に呟く。寒い、嫌だ、帰りたくない。

「トラファルガー、止めるからな」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ……」

意識がどんどん後ろの餓鬼に持ってかれてやがる。早くしねェと。

「こっくりさんこっくりさん。お帰りください」

我ながらアホらしい。こんなんで帰るなら苦労しねェよ、と思いつつ文句を口にした。
そうすれば案の定『いいえ』

「…ユースタス屋」
「今すぐ止めるから待ってろ」
「嫌だ、帰りたくない、やめるな…」

やめるな、とトラファルガーの真横で白い餓鬼はケタケタ笑う。しかし何だってあんな気持ち悪い。まともに見れなくて視線をそらした。
何で顔が上下逆さについてやがるんだ。

普通に終わらせることは多分もう無理だ。視えるから余計に分かる。そんなことでごちゃごちゃ悩んでる暇があるなら賭けるしかないだろう。じゃないとトラファルガーがヤバい。

ガタン、と立ち上がると重たい指を無理矢理引き剥がして十円玉から手を離す。そうしてその紙を引っ掴むと真ん中からビリビリと音を立てて破いた。
さて、これでどう転ぶか。賭けに勝てばこいつはここからいなくなる。正確にはトラファルガーの隣から。

ビリ、ビリリと破く。
一瞬目を離した隙だ。白い餓鬼はトラファルガーの隣からいなくなっていた。その代わりに部屋の外からケタケタと笑い声が聞こえる。
それに息を吐くとトラファルガーの隣に座った。

「大丈夫か?」
「…ああ。……つかお前、紙…」
「帰らねェだろうから破った」

息を落ち着けたトラファルガーにそう言えば何してんだ馬鹿と頭を叩かれた。
仕方ねェだろ。帰らないならターゲットを変える他ねェ。今頃あの餓鬼は俺の家に向かってる頃合いだろう。

「途中でやめたり破いたりしたらそいつのとこに行くんだぞ」
「知ってる。何とかなるだろ」

家に帰るのは今から気が重たいが仕方がない。それに一人でならどうとでもなる。
半憑依でもやはり体力をそれなりに消費するらしく、疲れたようにぐったりとしたトラファルガーにもう寝ろと頭を撫でた。そうすればでも…、と。珍しく俺を心配してるらしい。
んな柔じゃねェよ、と言って動かないトラファルガーを抱き上げるとぎゅうっと強くしがみつかれる。何だって憑かれやすい体質のクセに自ら危険に飛び込もうとするんだ、と思いながらため息を吐いた。

「ユースタス屋」
「あ?」
「…ありがと」

珍しく素直に礼を口にしたトラファルガーに驚きつつも、おう、とだけ返事をする。全くいつもこんな風に素直ならいいのにな、と思いながらケタケタと笑いながら腰に抱き着いて離れないこの餓鬼をどうしようかと思った。




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