ロー誕2012 | ナノ

その日からユースタス屋は俺の家で勉強するようになった。今日も今日とてテーブルの上に教科書とノートを開き、数式と格闘しているユースタス屋。分からないと言われた問題にヒントを出しつつ、俺もユースタス屋と向かい合ってルーズリーフを広げていた。一を知って十を知るほど、俺はできた人間じゃない。俺だって勉強しないとな、間に合わない。ユースタス屋がいるせいで一人でやるよりは捗らないけど、その相手がユースタス屋だから全く構わないと思えてしまう俺も大概だ。

「そういやユースタス屋さ」
「あ?」
「数学ばっかしてっけど他の教科はいいのか」
「あー…まあなんとかなるだろ。英語と国語は赤点とらねェ自信あるし、生物と世界史と政経は覚えゲーだし」

だけど数学だけはマジで無理、とユースタス屋は苦い顔して首を振る。

「つーことで他のはヤマだけ教えてくれ。特に生物と世界史」
「そんで前日に覚えると」
「わかってんじゃねェか」
「やだっつったら?」
「困る」

さして困ったような表情も作らずに、簡潔に言い放たれた言葉に思わず口許を緩めると、プリントを取り出しながらヒラヒラと手を振った。それを了承の合図と受け取ったのか、よしこれで大体いいな、と呟くユースタス屋。まあ赤点回避するだけなら前日でも大丈夫だろう。しかしどこまで人任せなんだか。

「ここまでしてんだ。もちろん俺には見返りがあるよな?」
「…何がいんだよ」
「テスト終わったら夕飯奢れ」

それで勘弁してやる俺まじ優しいわあ、なんて言えばユースタス屋が胡散臭そうな目で見つめてくる。それでもへーへーと頷きながら、結局は俺の我が儘を受け入れるのがユースタス屋だ。まあこの場合は俺も勉強教えてやってるし、ギブアンドテイクだから容赦しないけど。対等な理由をつけて甘えるときはいいけど、何でもないときにギブアンドギブくらいの勢いで俺を甘やかしてくるユースタス屋には困る。いつもこんな調子ならいいのに。無駄な期待もしなくてすむし。

再びもくもくと勉強し始めたユースタス屋をちらりと見る。まるっきりバカって訳でもないんだよな。こうやって教えればすぐ覚えるし、これはこの応用だってヒントやれば自力で解くし。ただ勉強と授業が嫌いなだけで。まあ、だからこうしてユースタス屋と二人きりで勉強できたりするわけだけど。暫くの間は互いが互いに黙って勉強していた。けど、ユースタス屋の集中力がそう長く続くはずがない。ころりとシャーペンが指から落とされたかと思うと、ユースタス屋は気だるそうにぐっと伸びをした。

「休憩だ休憩」
「………」
「おい、お前も休憩すんだよ」
「一人でしてりゃいいだろ」
「それじゃ俺が休めねェの」
「は?」

何言ってんだと顔を上げれば、のそのそと俺の隣に移動するユースタス屋。黙って見ていればテーブルを少しずらされて。そうして空いたスペースをいいことに、ころりと。あろうことか、ユースタス屋は俺の腿の上に寝転んだ。

「っ、はあ!?」

所謂、膝枕。突然の状況に声を荒げれば、ユースタス屋がうるさそうに眉根を寄せる。いやいやいや。お前誰の許可を得て勝手に人の腿の上で寝てんだ。何してんの、ねえ。

「降りろよ」
「いいだろ別に」
「寝るならベッド行け。重い」
「俺はここがいい」
「…ッ」

はあああ!?こいつ自分が何言ってんのか分かってんのか!?なぁにが「ここがいい」だよ!俺はよくねぇんだよ!

心臓がバクバクとうるさい中で必死になって冷静を保つ。俺がこんなことを考えてるなんてユースタス屋はいっさい知らないんだろう。それに安堵を覚えると同時に少しの憎らしさも覚える。俺ばっかりがユースタス屋を好きで悔しい、翻弄されて悔しいって。まあ実際好きなのは俺だけだけど、やっぱり悔しいからせめて慌ててるところだけは絶対に見せたくない。…こんなことされて、内心少し嬉しいと思ってることも。

「…五分だけだ」
「ケチケチすんなよ」
「俺の膝枕は授業以上に高ぇんだよ」

ただで寝れるだけありがたく思え、そう言うとユースタス屋はしょうがねェなと笑う。本当は今すぐ立ち上がって頭と床をお見合いさせてやりたかったけど、やっぱり本心はこの状況を喜んでるわけで。無駄な期待なんてしたくないから必要以上の触れ合いを避けたいという気持ちと、何でもいいから触れてほしいと願う気持ちがせめぎあう。

(何を思っても、ユースタス屋が俺を思う気持ちなんてただの友達と一緒の思いなんだろうけど。)
(勝手に期待して勝手に落ち込むのは俺だけだ。)

分かっているんだけどなあ。
するりとユースタス屋の髪を撫でる。ワックスで固められたそれを梳くなんてできないから、ゆっくりと撫でるだけ。暫くそれを続けて、とっくに五分たったことに気づく。

「ユースタス屋」

ポンポンと頭を叩く。けれど聞こえるのはすやすやとした寝息だけ。まさかたったあれぐらいで寝入ることができるなんて、と苦笑した。
立ち上がって無理矢理下ろして起こそうかなとも考えたけど、ユースタス屋の寝顔を見ていたらそんな気も失せた。まるっきり幼い顔で眠る姿。眉間に寄せた皺もなく、少し口を開けてぐーすか眠るユースタス屋に笑う。

(あ、今なら…。)

キス、できるかも。

ふとそんなことを思って、それで慌てて首を振る。いくらユースタス屋が寝てるからってそれはだめだ。頬を撫で、唇に触れる寸前で指を離した。
惚れたが敗けとは言うけれど、いつだって理不尽な想いに振り回されるのは俺だけだ。悔しいから、もう終わりだとゴンッとユースタス屋を腿から落としてやった。




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