なんて無謀な恋をする人 | ナノ

まあ待てよ俺。こういうときはとりあえず素数を数えて落ち着くべきだ。



おかしなことが起こるようになってからかれこれ二週間は経った。相変わらずテレビは勝手に点いたり消えたりするし、最近は謎の足音まで聞こえる始末だ。
ペンギンは頻りに引越しを勧めてくるしキャスは幽霊の正体がストーカーの生き霊だと思っている。

でも今のところそれが俺に明確な危害を加えたことはない。(襲われたのは別として。)
だから放っておいてもいいかなって思ってた。実際放置してた。(面倒くさいし。)
…今はもしかしたらそれが原因だったのではないかと後悔している。

いつものように携帯のアラームを解除するとあまり身動きが取れないことに気付いた。確かに今日も金縛りにあったしまたぺたぺたと触られた(これで三度目だ。)がそれに何か関係があるのだろうか。
だが寝起きの脳味噌はあまり上手く働いてくれない。まあいいや、と寝返りを打つ。大絶叫しそうになった。

(…っ!!はっ!?なにこいつ!だ…えっ!?)

人はあまりに強い恐怖や驚愕を覚えたときには声が出ない、と言うのは本当らしい。鈍器で頭を強く殴られたような衝撃を身に感じたわりに口は開閉するだけで役割を果たさなかった。声にならない声を出しながら目の前の見慣れぬ男を堪らず見つめる。

とりあえず警察に電話しなきゃ、と焦った脳味噌(今から考えるとぶっ飛び過ぎてたな。)が対応策を絞り出す。不法侵入でいいよな、と無理矢理体を捻って(動きにくい原因はこれか。何故か抱きつかれている。)携帯を取った。

「……ん」
「!!!」

無理矢理体を動かしたせいでどうやらこいつを起こしてしまったらしい。早く離れればいいものを、何故か固まってしまって動けない。

数度瞬きを繰り返した瞳がこちらを捉える。視線も逸らすことが出来ず、ただその瞳をじっと見つめ返してしまった。
するとその男は何を思ったのか、こちらに手を伸ばし……

チュッ

「!!ななな何しやがる!」

一瞬触れた唇に目を見開く。堪らず突き飛ばすとそいつは勢いよくベッドの下に転げ落ちた。軽く呻き声が聞こえたがそんなの無視だ。それよりもたった今奪われた俺の純情を返してほしい。

「…いってェ…何しやがる」
「それはこっちのセリフだ!」

男は頭を押さえると起き上がる。どうやら落ちたときに打ち付けたらしい。だが俺にとってそんなこと今はどうでもよかった。

「お前誰だよ!つかなんで……裸なんだよ!」
「あ?てめェだって裸じゃねェか」

ほら、と指を指されて自分の体に目を向ける。さあっと全身から血の気が引いた。次いで青ざめた顔のまま恐る恐るベッドの下を見やる。どうかお願いします神様仏様、俺に御慈悲をくださいお願いします、と心の中で呟いた。無駄だった。
ベッドの下には案の定衣服が脱ぎ散らかされていた。俺が寝る前にきちんと着ていた服が。項垂れると泣きそうになりながらシーツを被る。そこから導き出せる答えは一つしかない。それでも認めたくなくてこれは夢だと自分に言い聞かせてもう一度眠ろうとした。

「…おい」
「触らないでください」
「何で敬語なんだよ…つかさ、」

もしかして俺のこと視えてる?

何を言い出すかと思えば訳の分からないことを言いやがって。見えてんに決まってんだろうが馬鹿。と言おうとした言葉はあえなく崩れ去った。俯せて感傷に浸りきっていた俺の肩をぐいっと掴んで仰向けにさせた挙句、両手を押さえつけて顔を覗き込み、瞳をじっと見つめると呟くように囁いてきたからだ。…てか近い近い近い!顔が近すぎる!

「っ、見えてるよこの馬鹿!離れろ!」

思いっきり腕を振り払えばいとも簡単に解放された。そうか、とぽつり呟くと奴はベッドの上に座る。うん、てかお前本当に一体誰なんだよ。

「意外だな、視えるようになるなんて。お前霊感でもあんのか?」
「は?一体何の話してんだよ」

ごく当たり前のように話しかけてくるこいつが益々不思議でならない。霊感?一体どういうことだろうか。俺にそんなものはない。(と断言したいところだがいまいち微妙だ。)

「それより誰だっつってんだろお前。なんで俺の隣で寝てんだよ…しかも裸で」
「あ?そりゃあ言わなくても分かんだろ。それに、何だ…てめェが可愛すぎるからつい、な。…まあ悪く思うなよ」

こいつはにやっと笑うと今度は頬にキスをした。てかついってなんだよ可愛いってなんだよ悪く思うなってお前一体俺になにしたんだよ!言わなきゃ分かんねぇに決まってんだろ!
と、言いたいことは山程あるが残念ながら頭が混乱していて上手くついていかない。しかも今のあまり会話になっちゃいない会話のせいで余計な情報(しかも一番知りたくなかったやつ)を二つも入手してしまった。

一つ目。
俺はこいつと事を致してしまったかもしれない。

二つ目。
もしそれが事実なら俺は…下だ。

よりにもよって何で男…しかも顔を名前も知らない野郎となんか…。
深く重いため息を吐くととりあえず目の前でにやつくこいつをどうしようかと思った。


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