時計を見ればすでに日付は変わっていて、欠伸を一つするとファイルをしまう。そう言えば明日、いや今日か、は朝から講義が入ってる。じゃあもう寝るか、と立ち上がると寝室に向かった。
ベッドに入ってどのくらい経った頃だろうか。急に体が重くなり、手足が動かなくなった。金縛りだ。(ああまたか、と思える自分が嫌だ。)
最近は、というか身の回りで不思議なことが起こり始めた頃から金縛りにもあうようになった。だがこれは科学的にも証明されているものだし、と自分に言い聞かせてあまり気にしないようにしていた。
そうでなくともいつも十分(もかからないか?)ぐらいで体の自由は元に戻る。相変わらず体は動かないが目を開けなければただの暗闇なので問題ない。
だがその日はいつもと少し違った。いや大分違った。
ギシィ、と何故かベッドの軋む音が聞こえる。明らかに“何か”が乗っかってきたような感覚。
そしてそれはじっとこちらを見ているような気がする。それで…ここで目開けたら絶対それが視える気がする。
確かに元凶が分かっていいかもしれない、と一瞬脳裏に浮かんだがそれもすぐに消えた。それどころか、何も考えられなくなった。
ぺたり、と頬に触れる…冷たい、手?
もう駄目だと思った。俺は完全にホラー映画の主人公だ。主人公の選択によって映画はハッピーエンドかバッドエンドに分岐する。
なら俺は今、どの行動をしたらハッピーエンドに一歩進めるのか?
ゆるゆると確かめるように撫でる手?が首筋に触れる。
駄目だ。今ここで首なんて絞められたらハッピーエンドも糞もない。てか結構王道パターンじゃね?馬乗りになった女の幽霊が恐ろしい顔をして首を絞める。よくよく耳を澄ませば「死ね」「呪ってやる」なんて言葉を呟いてるのだろう。(って、なに考えてんだよ俺!)
もうどうしたらいいのか分からない。とりあえず気絶したかった。目が覚めたら朝になってればいい。だが残念なことにそう上手くはいかないもので。
すっと首筋をなぞる指先ががしっと首を掴む。(やばい俺本格的に殺される!)
…ぬるり、と。首筋を這う予想だにもしなかった感覚に思わず泣きそうになった。
もういい、“何か”なんて分かりきっているくせにオブラートに包んだような言い方は止めよう。
その俺の上に跨がっている?幽霊…は、何故だか知らないが…首筋を舐めた。
勘弁してくれ、どうすりゃいいんだよ。念仏でも唱えるか?でも俺、南無阿弥陀仏しか知らねぇし。
頭をどんなに回転させても(恐怖で回らない頭では高が知れてるが)当たり前だが何も思い付かない。それよりも俺は奴の手の動きの方が気になって仕方なかった。
…何で服のなかに入ってきてんだよ!
さわさわと脇腹辺りを撫でる手付きは幽霊にしてはリアル過ぎて…や、待てよ。
こいつがもしかして人間だったらどうしよう。
自分の考えにまた涙が出そうになる。人間か幽霊か、と聞かれるなら絶対に幽霊であってほしかった。