なんて無謀な恋をする人 | ナノ

「アイス食べたい」
「水とって」
「ベッドまで運べ」



あのあと到底一回では済まされなくて、結局シーツがよれよれになるまで抱き合った後目が覚めた俺はにわかに後悔した。何だこれめちゃめちゃ腰痛ぇ。
でも腰が痛くて動けないことをいいことにユースタス屋を体よく使えて気分は最高。ユースタス屋も初めてなのに激しくして悪かったという罪悪感があるのか特に何も言わず俺に使われている。

「な、ユースタス屋」
「あ?」
「お前って実は最初から人間だったんだろ」

アイスココアを飲みたいと言えばわざわざ作ってくれたそれを口に含みながら、街中でユースタス屋を見つけたときから疑問に思っていたことを口にする。そしたら隣でユースタス屋がコーヒーに咽る音がした。

「んな訳あるか!大体何でわざわざ幽霊のふりなんざしなきゃなんねェんだよ」
「いや俺に聞くなし。自分の胸に手を当てて考えてればいいと思う」

ユースタス屋汚ねぇと顔を顰めながら言えば怒鳴られた。久しぶりにユースタス屋の短気ぶりを間近でみたなと思いながら肩を竦める。そんなこと俺に聞かれたって分かる訳ねぇだろ。だって大体おかしな話だし。

「じゃあなんでユースタス屋ここにいんの?」

ユースタス屋を見つけたそのときはそんなことはどうでもいいぐらい…まあ嬉しかった、けど、それからよくよく冷静になって考えてみればみるほどユースタス屋は最初から人間であるような気がしてきたのだ。だって触れたし話せたし足もあったし。
でも、もしユースタス屋が本当に最初から人間なのだとしたなら、

「…うわ、ユースタス屋マジ最低」
「おいまて、てめェ何勝手に自己完結して人を最低人間に仕立て上げてんだよ」
「え、違うの?」
「違ェよ!とりあえず俺の話聞けって」
「それによっては今後お前との付き合い方を変える」
「だから俺は本当に一回死んだんだっての!」

声を荒げたユースタス屋の、一回死んだ、に思わずユースタス屋を見つめる。信じるか信じないかは別として、とりあえず話してみろと言うとユースタス屋はため息を吐いた。

「バイクで事故死ってのは前に言ったろ?」
「ああ、言ってたな」
「簡潔に言えば実は死んでなかった」
「…は?」

ユースタス屋の言ってることは相変わらず支離滅裂で、久しぶりに意思疎通に障害ができそうだなと思いながら罰の悪そうな顔をしたユースタス屋に眉根を寄せる。俺も簡潔に言おう。何言ってんだこいつ。

以下、たらたらと話すユースタス屋の要点をまとめてみればこうだ。
最初は自分もてっきり死んだものだと思っていたらしい。なのに意識がある。見える聞こえる話せる。だけど自分の姿は誰にも見えないし声も聞こえないし話しかけても応答がない。しかもよくよく周りを見渡せば訳の分からない機械(たぶん救命措置)に囲まれた自分がベッドに寝ているじゃないか。そこで気づく。ああ、俺仮死状態なのか、と。



「…で、なんでここ来たんだよ」
「行くあてもねェし暇だし、じゃあ家に帰ってみるかって思ったらお前がいて」
「いて?」
「すぐ病院戻るつもりだったんだけどお前見つけたら戻れなくなってずっとここにいた」
「じゃああの『離れたくねェな』ってやつは?」
「あんとき起きてたのかよ。…あれは…だってあの状態の方がお前とずっと一緒にいれるだろ。でもそろそろ病院戻らなきゃだし、好きだって言ってくれたからとりあえずいいかなと思って意識戻したらまた会いに来ようかな、と」

お前…俺があんなに喪失感で胸を痛めて後悔に泣き崩れていたのにとりあえずいいかなって何だその軽い感じ消されたいのか。ってか思ったんだけどユースタス屋が最初からそう言ってくれてたなら俺あんな思い悩むことなかったんじゃね?あれ?もしかして計画的犯行?

「ユースタス屋最低」
「だからなん」
「俺、ユースタス屋のことすっごい好きになっちまったんだぞ。最悪だな」
「…喜んでいいのか怒っていいのか分からねェ」
「喜べ馬鹿野郎」

立てた膝に顔を埋めてため息。だってそんなの俺ばっか悲しんで喜んで、俺ばっか、俺ばっか。

「なんですぐ会いに来なかったんだよ」
「目ェ覚ましたら一週間は絶対安静とか訳分かんねェこと言われてよ、戻ってきたことちょっと後悔した」

一週間も会えないとか、お前不足で死ぬかと思った。そう言って笑ったユースタス屋に抱き締められて結局何にも言えなくなる。

「…今度勝手にいなくなったらもう知らないからな」
「その心配はするだけ無駄だな」

ありきたりの言葉だけどユースタス屋に言われると格別に嬉しくて、額にキスされると擽ったくて笑ってしまう。ユースタス屋の一挙一動に一喜一憂して相変わらずどこの乙女だって感じだけど。でもずっと一緒にいたいななんてまたありきたりで乙女チックなことを考えずにはいられない。ああ脳味噌末期とか思ってたら、あ、とユースタス屋が不意に何か思い出したように声を上げた。

「俺、今日からここに住むから」
「ん。……は?」
「だからここに」
「や、それは分かった。なんでんな急に、」

ってか俺の意思はどこいった?そう言えばお前の意思何ざ最初から聞いてねェけど?と。何だこのやり取り前もやった気が。

「嫌なのかよ」
「別に……んなこと言ってねぇだろ」

ふいっと顔を背ければ相変わらず素直じゃねェなとにやにや笑われて。その顔がムカついたから頬を抓ってやった。

「飯はお前が作れよ」
「お前に頼んだ方が恐ェよ」
「勉強の邪魔もすんな」
「…努力する」
「訳分かんねぇとこで盛んな」
「お前の可愛さにもよるな」
「あと、」
「まだあんのか?」



「…ずっと俺の傍にいろ」
「喜んで」

ぎゅっとユースタス屋に抱き着いてそう言うと笑ったユースタス屋にキスされた。あーあ、いつの間に俺、こんなにユースタス屋のこと好きになっちまったんだろ。これじゃもう離れたくても離れられないじゃん。


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