なんて無謀な恋をする人 | ナノ

「俺のこと好きか?」




とてつもなく暑い日だった。
気温は朝っぱらから三十度を超えるし、お天気お姉さんは今年一番の夏日ですねとか言うしああこれがいわゆる真夏日か、なんて。茹だるような暑さのなか、文字通り茹だっていた俺は暑さで働かない頭でぼんやりと、さっき風呂に入ったばっかなのにもう一度入りたいかもしれないと考えていた。(何せ入る前にユースタス屋と一悶着あったのだ。誰が一緒に入るか変態野郎。)

そもそもそんな日にエアコンが壊れてるのが悪い。タイミングよく壊れやがって。

「………ユースタス屋」
「あ?」
「マジで暑い。離れろ」

なのに後ろから俺を抱きしめるユースタス屋に俺の体感温度は益々急上昇だ。そりゃお前は暑さとか感じねぇかもだけどさ。なら生前にあったあの肌の触れ合いから生じる熱を思い出せってんだ。
とにかく「ユースタス屋のせいで俺は熱中症☆」とかどこの(それも確実に一昔前の)少女漫画だよと言いたくなるようなセリフがパッと思い浮かんだ辺り熱で頭が大分やられてる気がする。


そんなときにあーいままで忘れてたけど今思い出したーみたいなノリで俺のこと好き?とか聞かれても誰が答えるかって話ですよ。

「……知らねぇ」
「じゃあ好きって言え」
「はぁ?!なんでだよ!」
「お前が俺を好きなのは知ってる。質問が悪かった」

だから好きって言え、とユースタス屋は言った。つか何でこいつはいつもこう自信満々なのだろうか。
大体なんでいまさらそんなこと言わなきゃなんねぇんだよ!……そのぐらい察しろよな。

「言わなくても分かるなら別にいいだろ」
「よくねェ。お前の好きにはいつも『かも』とか『多分』とかついてて曖昧すぎる」
「………」

確かに言われてしまえばそうだ。いやでも面と向かって好きってのはなんか…恥ずかしいじゃん。
ユースタス屋だって俺のそういう気持ちを知ってるからいつも強要したりしないくせに今日に限って一体何なんだ。別にそんなの聞かなくたって俺の愛は体現されて……



…ないな。


好きだって、そうじゃなくても抱き締めたりキスしてくるユースタス屋と違って俺はそういうことしたことない。むしろ邪険に扱ってる気がする……。

ユースタス屋不安なのか?

そう思って自分の考えにちょっと吹き出しそうになった(だってあのユースタス屋が不安がるって)けどいつも自信満々で強引な裏にはそんな一面があるのかもしれないと思うとなかなか無下に扱えなかった。言ったって別に減るもんじゃねぇし口をたった二回開くだけで簡単に言える言葉にどうしてこうも振り回されるのか。(ちなみにそりゃ相手がユースタス屋だからとかそういうベタな答えはいらないからな。)

俺っていつの間にこんな乙女になったんだろう、とため息を吐いた。あーもうあのテーブルの角に頭打ち付けたらちったぁマシになるかしら。それでマシになるなら何回でもぶつけてやるけど額から血垂れ流した奴に好きだ!とか言われても、ねぇ。

でもここはやっぱり言うべきなんだろうな、と一つ深呼吸をして口を開こうとすればユースタス屋にやっぱりいいと遮られた。何なんだよ、と拍子抜けした俺は唇を尖らせて、それにユースタス屋は曖昧に笑う。
少しだけ抱き締める力が緩んだような気もしたが特に何も思わなかった。


[ novel top ]


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -