なんて無謀な恋をする人 | ナノ

そんなの分からない、とだけ言って俯くと、そうか、と言ってユースタス屋は目を伏せた。


その日からユースタス屋は俺に触らなくなった。





「じゃあ行ってくるから」
「ん」

最近ではユースタス屋に見送られて大学に行くのもすっかり慣れてしまった。たまーに一緒に外に出るときもあるが、大抵ユースタス屋は家にいる。(前に俺についてきたとき、街行く子どもにすごく不審な目で見られたからだ。あれは確実に独り言がでかいただの変質者だった。)
一人のときユースタス屋が何をしているのかなんて知らないが、まあそんなことはどうでもいい。

靴を履いて立ち上がる。それからは、いつもなら抱き締められるか頭を撫でられるかのどっちかで。そう思うと何でか急に緊張してしまって(多分この間の質問のせいだと思う。)、いつもなら軽く返すそれにも思わず身構えてしまう。


ほら、今だってユースタス屋の手が。





「…早く行かねェと遅刻するぞ?」

俯いてぎゅっと目を瞑ると、何てことない、降り注いだのはただの沈黙。顔を上げると首を傾げたユースタス屋と目があった。あ、目があうのもなんか久しぶりかも、と頭の片隅で少し場違いなことを考える。


「…行ってくる」
「おう」

くるりとユースタス屋に背を向けると、だるそうにひらひらと振られた右手。それを尻目に外に出た。


憎らしいほど快晴だった。
照り付ける陽が眩しくて、少しだけ目を細める。

(いつもならあの右手が俺を引き寄せて抱き締めてくれるのに。)

自分の考えに眉根を寄せると一つため息を吐いた。
何だってんだ全く。あんなに嫌だ離れろ触るなと喚いてきたくせして触れなくなったらそれはそれで嫌だ、とか。

俺は我儘で、多分、ズルイ。

ユースタス屋はいつだって好きだと言う。俺は何も言わない。ことあるごとに抱き着かれる。離れろとは言うけど自ら離れようとはしない。触れるだけのキスをされる。何すんだとは言うけれど、別に嫌じゃない。
どっち付かずの態度をとる俺を、ユースタス屋はどう思ってるんだろう。お前はズルイと言われてもおかしくないのにユースタス屋は何も言わない。

(どう思ってんの、か…。)

ユースタス屋のことは、言ってしまえば、嫌いじゃない。ただ好きかと聞かれると、やっぱりよく分からなかった。


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